歪な氷雪-25
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どれくらいそうしていたのか、雅治が目を覚ました時にはテレビも消えており、覚えのない掛け布団までかぶっていた。まだ少し寝ぼけているような気がする。
「ごめんなさい、起こしちゃった?」
美羽の声だった。雅治は起き上がりがてら横を見て、
「ああ、いいんだ。まだ寝ないつもりだったから」
と布団の上に座っている美羽に言った。
娘は浴衣に着替えていた。湯上がりのいい匂いが雅治のところにまで漂ってくる。
ぽうっと体温が上がり、雅治はつい我を忘れて美羽に見惚れた。
そんな時、
「ねえ」
と美羽が静かに語りかけてきた。
「な、何だ?」
「今日って何の日だか知ってる?」
「ええと……、何の日だったかなあ……」
雅治が首をひねっていると、
「バレンタインデーだよ」
美羽から甘酸っぱい答えが返ってきた。そうか、今日は二月十四日なのか──と雅治は今になってようやくマフラーの意味を理解した。
そして布団の中に紛れているそれを取り出し、
「こういうのを作るとなると、ずいぶん時間がかかるんじゃないのか?」
と娘のことを労(ねぎら)ってやる。
「そうでもなかったよ」
美羽は微笑んだ。洗いたての髪が揺れるたびに甘い香りが寄せてくる。
小首をかしげたそのポーズが妙に色っぽく、十六歳の少女だということを忘れさせるほど危うい眼差しを向けられた雅治は、本気で美羽に欲情した。
何かしゃべらなければと思っていても、娘の目を見つめ返すことしかできない。
下半身はむずむずと尖りはじめている。息が詰まりそうだった。
「ああそうだ、テレビでも見ようか?」
思いつきで雅治は言った。けれども、
「もう遅いから……」
と美羽は遠慮した。
ふたたび息苦しくなり、それじゃあ足湯でもどうだ、みたいなことを言ってみたが、それでも美羽は乗ってこない。ただじっと見つめてくるだけである。
このまま美羽を押し倒してしまおうかとも思った。すると、
「そのマフラー、ちょっとだけ失敗しちゃった」
照れを隠さず美羽が言い、そこから四つん這いの格好でそばまで寄って来た。
「ほら、こことここ、編み目がばらばら」
美羽の指差す先を雅治が目で追う。肩が触れ合うほど急接近したまま視線を上げていくと、そこには美羽の唇があった。
まわりの音など何ひとつ聴こえなかった。もう理性に頼る必要もないだろう。
父と娘は唇を重ねた。どちらかというと娘のほうが積極的な感じだった。
口の中に甘露がひろがり、その味を二人で共有しているのだ。
くっついたままのそこは敏感な皮膚だった。こそばゆいくらいの刺激と微熱を感じる。
これが娘の唇なんだなと感動するでもなく、雅治は呆然としたまま動けなくなっていた。