歪な氷雪-24
ふと雅治は娘の所在を気にした。こっちはこっちで相変わらず引きこもっているようだ。
「スキーは楽しくなかったか?」
雅治は訊いてみた。
「楽しかった……」
「俺が一人で張り切りすぎたみたいだな。明日はもう少しゆっくり滑ろうな?」
「あたし……」
「うん?」
美羽が何かを躊躇っている。そして、
「お風呂に入ってくる」
と言ってうつむき加減に部屋を出て行った。
フリースジャケットにジーンズ姿の小柄な残像がそこにとどまっていた。
いつもと雰囲気の違う娘をどう扱えばいいのかわからず、やれやれと雅治は首を振った。
少し横になろうと思い、そのまま布団の上に倒れ込む。大の字になって、となりに視線をやると、空っぽの布団に娘の輪郭を描いた。
「美羽、俺はおまえのことが好きなんだ……」
雅治は思いの丈をつぶやいた。恥ずかしい時に赤面するのとはまた違う血のめぐりが、全身を飲み込むようにとくんとくんと流れていく。
この血潮が熱いうちは、もっと貪欲に美羽を愛してやろう。いや、違うな。俺自身が愛に飢えているのかもしれない──。
急に人肌が恋しくなり、雅治は枕を抱えて寝返りを打った。違和感をおぼえたのはその時だった。布団の中に何か入っているようだ。
取り出してみると、それは綺麗な紙袋に包まれていた。さらに、『お父さんへ』という文字がある。
雅治は腕組みをしながら謎の紙袋と睨み合いをしていたが、しばらくすると頭の中で電球が光った。
これは美羽が仕組んだいたずらに違いない──そうひらめいたのだ。
しかし、あの涙の意味するところが何なのか、それとこれとがうまく結びつかない。
いろいろ考えた結果、雅治は紙袋を開けてみることにした。中から出てきたのは黒いマフラーだった。
デザインも何もないただの毛糸の巻き物だが、それが手編みのマフラーだということはすぐにわかった。
どうりで夜更かしばかりしていたわけだ──と雅治は娘の眠たそうな顔を思い浮かべた。
ずっと避けられていると思っていただけに、ここまで尽くしてくれる美羽のことが愛おしくてたまらない。
素直じゃないところも、笑うとえくぼができるところも、それに露出が多くて長い脚も、すべての要素がチャーミングに思えてならない。
どんなに清らかなことを夢想しようとも、美羽を犯している場面を夢見る夜が時々ある。
何がオリンピックの魔物だ──と雅治は自分自身がとんでもない魔物だということを認め、プレゼントに秘められた娘の思いを探すようにマフラーを胸に抱いた。