歪な氷雪-22
うむむ、と雅治が低く唸ると、への字を描いた眉毛がおもしろいように動いた。
こんなにおもしろい父を見たことがなかったのだろう、美羽は声を出して楽しそうに笑った。
「どうして布団が敷いてあるんだ」
訝(いぶか)しげに雅治がつぶやく。
「旅館の人が敷いてくれたんじゃない?」
美羽はあたりまえのことを言う。
「布団が二つあるのはまずいだろう」
「えっ?もしかして一つの布団に二人で寝るつもりなの?」
「そうじゃなくてだな、こんなふうに布団をくっつけてあるのがまずいと言ってるんだ」
「なるほどね」
父と娘は室内が見渡せる場所に立っていた。時刻はもうすぐ午後八時になろうとしている。
昼間は昼間で思う存分スキーを満喫し、旅館には視界があるうちに辿り着いていた。
そうして振る舞われた夕食を大広間で食べたあとに部屋に戻ってみたら、すでにこの状態だったというわけだ。
「おまえは何とも思わないのか?」
またしても雅治が不満を漏らす。
「せっかく敷いてもらったんだから、あたしは文句は言わないけど」
美羽はけろっと言った。そして、
「ひょっとしてあたしのこと、意識してる?」
どきりとする台詞が娘の口からもたらされた。図星だとは口が裂けても言えない。
「……ばかを言うな。……まあいい。……風呂に入ってくる」
しどろもどろになりつつ、雅治は入浴の支度をしてさっさと部屋を出た。