歪な氷雪-21
屋根一面に雪をかぶったレストハウスに二人は入った。
オリンピック開催期間と土日とが重なったからか、昼食時を過ぎているにもかかわらず、ほとんど満席に近い状態だった。
美羽が言うには、喉はからから、お腹はぺこぺこ、だそうだ。そこは雅治も同感だった。
なにしろ朝食を取ったのが今朝の六時頃で、しかもコンビニのおにぎりなどで軽く済ませただけだったものだから、二人とも電池切れ寸前なのである。
ほどなくして空席ができると、父娘は向き合うかたちで椅子に座った。
「今のうちにたっぷり充電しておけ。何事も体が資本だからな」
雅治は貫禄を出したつもりだったが、
「それじゃあラーメンとおでん、あとコーラもね」
ちょちょいと返されてしまった。どうやら娘には通用しないらしいとわかった雅治は、二人分の食事を注文するために券売機で食券を買った。
あらためて店内を見渡せば、しぜんと親子連れのほうに目が行ってしまう。どの家族にも必ずと言っていいほど母親がいるのだ。
しかし今さら羨ましいとは思わない。こうやって高校生の娘と共通のスポーツができるのだから、これ以上のことを望んではだめだ。
おまえもそう思うだろう?美羽──と娘を探し、直後に雅治は意外な顔をした。困り果てた様子の美羽がそこにいたのだ。
気持ちは穏やかではなかったが、できるだけ感情的にならないようにその場所へと向かう父。
「うちの娘に何か用があるのか?」
語気を尖らせて雅治は言った。
美羽の両側に立っている二人の男は、いきなりあらわれた父親にびっくりしたようだ。それに彼らよりも雅治のほうが身長もある。
「知っている人なのか?」
美羽にたずねると、彼女は首を横に振った。
ちぇっ、と舌打ちしたのは男らの一人だ。大学生そこそこの年齢だろう。
雅治がふたたび口を開こうとする前に、若者二人は大人しく退散していった。
「一緒に滑らないかって誘われちゃって……」
と美羽は先ほどの出来事を父に告げた。こわい思いをしたらしく、目尻が弱々しく垂れている。
危うく大事なものをなくすところだったと、雅治は大げさに安堵した。
「お父さんのこと、ちょっとだけ見直した」
「ああいうがちゃがちゃした男に、ろくなやつはいないからな」
「それを言うなら、ちゃらちゃらした男でしょう?」
ああそうか、と雅治はうっかりした顔で口を開けた。
「そんなことはどっちだっていいんだ。とにかく、おまえにふさわしい男は俺が探してきてやる」
「また勝手なこと言ってるし」
「俺はおまえの父親だぞ」
「あたしにだって好きな人くらいいるんだから」
「なに?」
聞き捨てならないと雅治は思った。だが大勢の前で揉めるのもまっぴらごめんだ。
「昼飯を買ってくる」
それだけ言って雅治は大股で歩き出す。娘に好かれた人物がどんな男なのか、気になって仕方がなかった。