歪な氷雪-19
近親相姦は無条件に美しくなければならない──と雅治は勝手に思い込んでいた。
夢見心地の時間の中で、海洋生物の交尾のようにふわふわとセックスしているイメージがあったのだ。
けれども現実はもっと醜悪で、痛々しく、どろどろしているのではないだろうか。
よく考えてみればわかることだ。女の膣は匂いがきついし、愛液を舐めたところで甘い味がするわけでもない。
彼女たちはもれなく花や果実の匂いを身にまとい、自分に都合の悪い匂いをごまかしているだけなのだから。
けじめをつける顔つきで雅治は立ち上がり、美羽の部屋に侵入した。
とりあえずベッドに腰を下ろし、両手で布団を撫でてみる。ここで美羽が寝ていると思うと全身が粟立ち、下半身も勃起した。
ちくしょう、ちくしょう、と吐き捨てながら雅治は布団に掴みかかり、そこに顔面をこすりつけた。鼻が曲がるほど何度もそうやった。
忘れろ、忘れるんだ──自分の体から亡霊を追い払うように布団と戯れていても、ほんとうはマスターベーションがしたくてたまらなかった。
雅治は衣装ケースの中身を物色した。なるほど、色とりどりの下着類がきれいに収納されている。
その中の一枚を拝借し、目の前で広げた。この際、自分が変質者だということは考えないでおく。
そしてショーツの匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。ふう、はあ、ふう、はあ、と息を継いで、ほかの衣類にも手を伸ばす。
ブラジャー、スカート、キャミソール、ハイソックス、どれもこれも美羽が処女であることを象徴しているように見えた。
愚かなことだとわかっていながら、雅治は娘の部屋で自慰行為に及んだ。
娘の私物にかこまれて自身を慰めるのは快感だ。まるで美羽の胎内にいるようだった。
いや、膣内といってもいい。
今ここで射精すれば、そいつで美羽の子宮を濡らすことができるのではないか。
雅治はがむしゃらに手を動かした。そうすることで長年の思いが晴れるような気がしたからだ。
美羽が夜遅くまで起きているということが、ここ何日か続いている。
仲の良い友人と長電話でもしているのか、あるいは思いを寄せている誰かのために夜なべをしているのかもしれない。
まさか、オナニーをしているんじゃないだろうな──ということは前々から考えていたことではある。
しかしその痕跡を見つけ出すことはとうとうできなかった。
何はともあれ、今度のスキー旅行は純粋にレジャーを楽しむことにしよう。美羽だってそれを望んでいるはずだ。
そうしていつの日か、この家を巣立っていく娘の背中を見送る時には、健全な気持ちのまま堂々と胸を張っていられるだろうと雅治は思った。