Taste-5
「もう、大分暗くなりましたね・・・セリス様、もし宜しければ私の店にお寄りになれませんか?是非私の料理をご馳走したいと思うんですが」
カールの提案にセリスは1瞬相手の顔を見る。
下心を感じさせない黒い瞳の色と、やや緊張気味の年相応の戸惑った表情が印象的だった。
セリスにしてもホテルに戻ったところで、相手が待っているわけでもない。
結局食事も1人で目立たずに済ませてしまうことになり、あとは1人で寝るだけになる。
カールに対しては興味が湧いてきたところではあるし、どうせなら彼の店や料理について知っておくのも悪くない。何より退屈することはないだろう。
勿論夕食前ということで、空腹を覚えてきたのも理由の1つとしてあげられるだろう。
「そうね・・・折角だし行ってみようかしら」
セリスの言葉にカールは嬉しそうに表情を緩めた。
彼の年相応な笑顔を間近で目にすると、セリスは彼が自分より年下ということを改めて実感することができた。
「ありがとうございます。それでは、ご案内します。どうぞ!!」
うきうきしているのが傍目で分かるくらい行動が機敏になったカールに苦笑しつつ、セリスは彼に引っ張られるようにして後に続いた。
¢¢¢¢¢¢¢¢¢¢¢¢
―――『狼亭』と刻まれた店の入口には『本日休業』と書かれた札が吊るされている。
セリスの前に立つカールは札はそのままにドアノブに鍵を差し込み、ゆっくりと扉を開いた。
「少し汚いかもしれませんが、お好きな席を選んでお待ちください」
室内に据えられた灯りを手際よく着けながらカールはセリスを促し、そのまま店の奥にあるドアを開いて奥へ引っ込む。
セリスも辺りを見回して部屋の真ん中の円卓を選んで腰を下ろした。
ほどなく店の奥から無数の金属音と共に火を起こす気配と独特の香りが流れてくる。どうやら調理の準備を始めたようだ。
(・・・・・・)
セリスは改めて店内を見回した。
カール曰く汚れているということだったが、セリスが見る限り手入れはされているようだった。
やや色褪せた絨毯が敷き詰められた床面。
円卓1つに椅子が3つ。それらが室内に5組。
その他部屋の隅にあるカウンターに椅子が4つ。
窓には緑色の分厚い生地で編まれたカーテンが垂れ下がり、外からは室内を窺い知ることはできない。
壁紙は派手さを抑え、木目をイメージさせるものであり、それが壁に掛かっている数枚の油絵やカウンターの植木鉢と妙にマッチングしていた。
素人目に見ても落ち着きを感じさせる雰囲気が室内に漂っていた。
やがて店の奥からカールが銀のお盆に水の入ったグラスと花瓶を乗せて現れる。