Taste-4
「紹介します。先程話していた私の甥にあたるカールです。今日は店の定休日だということで、届いたばかりの肉と果物を届けてくれたんですよ・・・ほら、貴方からもセリス様にご挨拶なさい」
「お初にお目にかかりますフィガロ王妃セリス様。カールと申します。叔母からはいつもセリス様のことは伺っておりました。現在サウスフィガロに『狼亭』という店を出しています。また機会ありましたら、是非お越しを」
「はじめまして。私の方こそ、今後とも宜しく。何でも器用にこなし、特に料理については一流だそうですね」
「そこまでお褒めいただくと、かえって恐縮してしまいます」
年相応に顔を赤らめるカールの瞳には、これまでセリスを求めてきた欲望の色と光は宿っていない。
本能的にそれを察しつつ、セリスは立ったままの2人に席を進め、
そのまま互いの近況やカールの料理といった話題で盛り上がった。
はじめはやや固い感じのカールも、いつしか自然体でざっくばらんな口調と表情を見せ、
セリスも肩肘張らずいつも通りに振る舞うようになっていた。
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―――いつしか太陽は西に沈もうとしており、辺りも薄暗くなってきた。
セリスは暇を告げ、神官長に見送られながら帰途につく。
今夜は宿泊しているサウスフィガロの高級ホテルに戻り翌日にフィガロ城に戻ろうと考えていた。
神官長の屋敷から街路樹の道を通って市街地に戻るセリスの傍らを、同じくサウスフィガロに戻るカールが並んで歩いている。
「・・・でもセリス様とこうしてお話しさせてもらうと、何だか想像していたものとは違っていましたね。
何というか・・・お美しいだけではなく、意外に気さくで話しやすくて、それでいて大人びていて・・・。
・・・あぁ、すいません。何だかうまくまとまらないな」
頭をかきながらカールは苦笑する。
初めて顔をあわせた時の固さは影を潜め、本来の飄々とした軽やかさが前面に出ていた。
そんな彼の変化をセリスは好ましく思いつつ、いつしか彼女自身も王妃というよりも、年上の女性という立場で接する。
「私も王妃なんて肩書きだけど、堅苦しいのは好きではないから、むしろこうしてざっくばらんに話してもらった方が気楽でいいわ」
「そうですか、私もそう言っていただけるとありがたいです」
何気ない雑談を交わしながら、2人はようやく市街地の灯りや雑踏のざわめきが伝わってくるところまでやってきていた。