Taste-3
「これは街の郊外に住む甥が殆ど全てやってくれたんですよ。
勿論私が花が好きということもあるのですが、
その意図を汲み取ってくれたおかげで私の希望以上の仕上がりをしてくれました。
定期的に手入れの為に足を運んでくれるのです」
「しっかりしているんですね。仕事は庭師なんですか?」
「いえいえ、本職は料理人なんですけど、何と言うか・・・何でもそつなくこなすんです。だから庭手入れも得意なんですよ。まだ若いんですけどね、最近自分の店も出しているくらいなですから」
セリスの中で“若く腕の良い料理人”に対する興味が沸いた。
無論彼女自身、単なる好奇心の延長だと思っているかもしれないが、
そういう異性に対する何気ない関心は、帝国将軍時代やエドガーとの結婚前後にはなかったことである。
もっともセリス自身、そんな自身の変化には気がついてはいない。
ーーーーチリチリィン・・・・・
その時まるで示し合わせたかのように玄関の呼鈴が鳴った。
「はいはい、誰かしらね」
そう呟きながら、
神官長はセリスに一言断ってから腰を上げ、部屋を出ていく。
1人残された形のセリスは少し温くなっている目の前の紅茶のカップを手にし、一口くちをつける。
セリスの座っている場所から見えないが、玄関口で
神官長と若い男の話し声が微かに聞こえてくる。その口調からは両者が親しい間柄だということが分かる。
やがて彼女がバルコニーに戻ってきた時、その傍らには若い来客者が立ち、座っているセリスに対して軽く頭を下げた。
つられてセリスも会釈を返しつつ、改めて自分よりも頭1つ分高い金髪の男の顔を見た。
肩付近にまで伸びる金髪をまとめることなくたなびかせ、
青い着流しを自然に着こなしている。開いた胸元からは割れた腹筋を垣間見ることができた。
年齢はセリスよりもやや年下という印象を受ける。その顔立ちはどこか『遊び人』風の軽薄な感じは残しつつも、その黒い瞳にはいざとなればできる男だということを感じさせる強い輝きを秘めている。
今までセリスが男達とは、また違う雰囲気が滲み出ている。
そんなことを考えながら、セリスはいつしか自分の目の前に立つ男を品定めしていることに気付き、内心焦りを覚えてしまう。
無論王妃になってからの経験のお陰か、内心の動揺は一切表に出すことはなかったのだが。