とある日常【悠久の王・キュリオ】編 アオイの初めて]-1
ぎゅっと青年の胸元を掴み、強く目を閉じている葵。
肌に感じる風から物凄いスピードで移動しているのがわかる。
男は優しく葵の小さな背中を抱きながら木々の合間を縫って駆け抜けていく。
一際大きく地を蹴ったかと思うと、どうやら高度をあげて枝へ飛び移ったらしい。
「アオイ様はまだ見つからないのかっ!!カイのやつ一体どこへ・・・」
その時、アオイの耳には王宮に仕える家臣たちの声を聞いた気がした。
「あ・・・」
思わず目をあけたアオイは声のするほうへ視線を下げる。
だが、その声の持ち主の姿はとても小さく・・・どんどん遠ざかっていく。
「・・・お前を探しにきたやつらだろ?見つかったらうるさくなりそうだからな」
そういう青年は楽し気にどんどん高度をあげ、飛ぶように移動していく。
「お兄さんすごい・・・っ!!鳥さんになったみたい!」
瞳を輝かせてあたりを見回す小さな少女に目を細める男。
「鳥か・・・よし!」
青年が大きく踏み込み、力を入れて枝を飛び越えると・・・
――――――バサァ
彼の身長程もある大きな黒い翼が葵の視界を覆った。
「わぁっ!!お兄さん鳥さんの王様なのですか・・・!?」
「鳥の王様?ははっ!!じゃあ鳥の王の嫁にでもなるかっ!」
「お嫁さんになったら私も鳥さんになれますかっ!?」
「鳥にはなれないかもしれないが・・・お前を抱いて好きなところを飛びまわることは出来るぜ?」
黒光りする大きな翼はとても艶やかで目を奪われるほどだったが、それ以上に青年の笑顔は美しく・・・はっとするくらい魅力的だ。
「はいっ!!お父様に聞いてみますっ!」
「・・・ん?」
わずかな疑問を胸に、男は首を傾げた。
(・・・鳥の王の嫁になりたいっていうつもりか?)
「お前がいつまで俺のことを覚えているか見ものだな!楽しみに待ってるぜ!!」
楽しそうな二人の笑い声が悠久の空にこだまする。
誰にも邪魔されることなく"鳥の王"と悠久の幼い姫はすっかり打ち解けていった―――――