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Betula grossa
【ラブコメ 官能小説】

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茉莉菜の日記......-6

「よく来てくれたわね!」
翔子さんは笑顔で俺を迎え入れてくれた。
「話って何ですか?」
「純君!あなたウィーンに来る気ない?」
「えっ?」
俺が驚いて翔子さんを見つめると、亜梨紗も同じように翔子さんを見つめていた。
翔子さんの話によると、俺のザッハトルテを気に入った翔子さんはすぐにハインツの師匠であるシュスターに連絡したそうだ。日本にハインツのザッハトルテを再現した天才がいると....俺を天才だと表現するのはどうかと思うが....そしてシュスターさんに聞いたそうだ。弟子をとるつもりはないかと....シュスターさんは俺の作ったザッハトルテを食べてからだと言ったそうだが断られはしなかったそうだ。
「純君は卒業した後はどうするつもりなの?」
翔子さんが尋ねてきた。
「このまま上に進学するつもりですけど....」
「前にも言ったけど....菓子職人への道に進むつもりはないの?あなたには才能があるわ!その才能を生かすには......」
「努力と運と環境......亜梨紗のように追いかけなければ生かせない......」
祥子さんは一瞬驚いたような顔をして
「わかっているなら......」
「確かに亜梨紗の近くにいられるのは魅力的です....ケーキ作りも嫌いじゃありません....でも....俺....まだこの道に進む決心をしたわけじゃ......だから今ウィーンに行っても......」
翔子さんの申し出は正直嬉しかった。亜梨紗と一緒にいられるなら....そんな気がなかったわけじゃない....でもそんな気持ちで行っても俺は菓子職人にはなれない....そう思ったからだ......
「まぁ....あなたの言いたい事もわかるわ....もし気が変わったらいつでも連絡して来て!待っているから!」
「ありがとうございます....でもどうして俺なんかのために......」
「一つはあなたの作ったザッハトルテが気に入ったから......そしてもう一つは亜梨紗のため......あの子、あなたがいるといないとでは全然出来が違っているから......プロのピアニストとしては失格なんだけど....あなたが傍にいる時のあの子の音はそれすら気にしなくてもいいと思えるくらいのモノだから......」
「考えさせて下さい......」
「あなたの一生を左右しかねない事だから....どれだけでも待つわ....私達がウィーンに行った後でも決心がついたらここに連絡して!」
翔子さんはメールアドレスを書いたメモを渡してくれた。その後、夕食をごちそうになり俺達は翔子さんと別れた。帰り道、亜梨紗はその事について何も言わなかった。ただ、ずっと一緒にいたいっていう雰囲気は伝わって来た。


「葛城!昨日、美浦と二人でどこに行ったんだ?」
学校に着くとすぐに拓弥が声をかけて来た。
「亜梨紗の叔母さんの所だよ!」
「美浦の叔母さんって......」
「翔子さんだよ!」
「翔子さんって......」
拓弥が絶句していると
「何?何?どうしだの?」
姫川さんが話に割り込んできて、拓弥が説明すると姫川さんも絶句した。それくらい翔子さんは有名人なのだ。翔子さんを親しげに名前で呼んでいるだけでなくウィーンに誘われたと知ると俺を見る目が明らかに違っていた。
「もしかして....お前は俺達とは違う人間だったのか?」
拓弥が唖然としたように言うと
「何言ってるの?二岡君!元々葛城君はスターだったじゃないの......」
姫川さんも追い討ちをかけた。
「やめてくれよ!俺はただの高校生だよ!たまたまつき合った子が凄かっただけだよ!」
「って!こんなところで惚気るな!」
拓弥が指で俺の額を軽く押した。
「別にそんなつもりは......」
俺が照れていると
「でっ!葛城君は何て返事したの?」
そんな姫川さんの言葉に現実に引き戻された。
「考えさせてくれって......」
「俺ならすぐにOKだけどなぁ......」
「確かに魅力的な話だけどそれだけにいろいろ考えてしまって......」
「そうね....葛城君の気持ちもわかるわ....後悔しないようにしっかりと考えてね!」
「ああ....ありがとう姫川さん......」
とりあえず俺はカズ姉の店でバイトを続ける事にした。いつか亜梨紗に逢いに行く時の旅費が必要だからだ。おかげで亜梨紗と逢う時間が減ってしまった。亜梨紗のレッスンの時間帯と俺のバイトの時間帯が合わなかったからだ。そうこうしているうちに、卒業式を目前に控えるようになってしまった。亜梨紗と離れる日が迫って来ていた。俺はウィーンに行く亜梨紗との遠距離恋愛に不安を感じながらも、俺達なら大丈夫!そんな根拠のない自信を持っていた。




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