茉莉菜の日記......-2
「あっ!ゴメンなさい!どちら様かしら?」
女の人が声をかけてきた。
私は慌ててベッドから出て
「美浦亜梨紗と申します!大変失礼ですが......お二人は純の.....」
「あっ!ゴメンなさい!私達は一応純の親という事になってるわ!」
「申し訳ありません!大変失礼しました!」
私は深々と頭を下げた。
(ご両親が来るならそう言っておいてよ......)
私は心の中で純に悪態をついた。
「気にしないで!亜梨紗ちゃんは純の彼女?」
お母様が笑顔で話しかけてきた。
「はい....アタシはそのつもりなんですが......」
「もしかして....純は亜梨紗ちゃんの事を弄んでいるだけだと?だとしたら、後で純の奴を叱っておかないと!こんな綺麗な子と....私だったら亜梨紗ちゃんを泣かせたりしないよ!どうだ?」
お父様の言葉に
「息子の恋人になんて事言うのよ!」
お母様はお父様の脇腹を抓った。
「だって!亜梨紗ちゃんが、彼女のつもりって言うから....」
「それは謙遜して言ったのよ!ねぇ?」
そう言われて私は頷くしかなかった。
「ところで純は?」
「和紗さんのお店にお手伝いに行きました......申し訳ありません....留守の間に勝手な事を......」
「それは気にしないで!純がそうしていいって言ったんなら問題ないから!ところで、亜梨紗ちゃん?前に逢ったような気がするんだけど......」
「アタシ自身はお二人にお逢いするのは初めてです。ただ以前、純はアタシの双子の妹とおつき合いしていたので....それで....」
「妹さんって....もしかして......」
「はい......亡くなった茉莉菜です......」
二人の顔色が変わった。
「どうかなさいましたか?」
「えっ?あっ!ゴメンなさい......あの頃の純を思い出してしまったもので......」
お母様が俯いて呟くように言うと
「母さん!」
たしなめるようなお父様の言葉に
「ゴメンなさいね亜梨紗ちゃん......亜梨紗ちゃんも純と同じくらい......ううん....もしかしたら..それ以上に悲しい思いをしたのに....バカな親の私の話を聞いてくれる?」
「はい......」
「母さん!それは亜梨紗ちゃんには関係ない話だ!亜梨紗ちゃんに言うべきじゃない!」
「そんな事わかっているわよ!お父さんはあの頃の純を見ていないからそんな事が言えるのよ!私だってわかってる....言うべきじゃないって....でも....亜梨紗ちゃんは茉莉菜ちゃんの......だからバカな親って言ったでしょ......」
「母さん......」
私は何も言えずただ二人を見つめていた。
お母様の話は茉莉菜が亡くなった頃の話だった。
恋人を亡くした純の落ち込み様は見ていられないくらいだったそうだ。しかし、純はその事を周りに悟られないように、わざと明るく振る舞って、それが更に見ていて辛くさせたそうだ。当時、お父様は長期出張中で相談する事も出来ず、お母様をさらに悩ませたみたいだ。それでも、表面上明るく振る舞っている純を見ていると、もしかしたら立ち直っている?なんて思わせるくらいだった。しかし、ある夜聞いてしまった。『茉莉菜....何で死んでしまったんだよ......』そう言って泣いている声を....朝には明るく振る舞う姿を見せていたのが更に辛かったそうだ。お母様が注意して見ていると、純は夜になると泣いていたそうだ。時が経つにつれて、純が泣く事も少なくなり、春が来る頃には無くなったようだ。
「ゴメンね亜梨紗ちゃん..変な話をして......別に純と絶対に別れないで!って言ってるわけじゃないの......純にイヤな所があったならフッてくれていい....ただ....純が亜梨紗ちゃんを茉莉菜ちゃんの代わりにしているんじゃないかと思ったから......亜梨紗ちゃんに茉莉菜ちゃんを重ねたりしてない?亜梨紗ちゃんはそんな純を仕方ないって諦めてない?」
お母様は泣きそうな顔をしていて、お父様はいつの間にかいなくなっていた。
「正直言って....わかりません....純の心の中までは......アタシは純を信じる事しか出来ませんから....純は茉莉菜を想い出にしたって言ってくれてます....アタシはその事を信じる事が出来ます....だから私は純と一緒にいるんです....ただ......」
「ただ?」
話の途中で俯いてしまった私を見て、お母様は優しく微笑んだ。