陥落-2
男は一度クリトリスをつついた後、両手で大陰唇を広げてその内側を丹念に舐めている。
下から上へ。ゆっくりと。
性感帯である腟口周囲やクリトリスに触れないよう気をつけながら、大陰唇の内側を何度も往復する舌に、恵は言いようのない恐怖を感じていた。
男は、時に舌先で細い筆のように、時に舌全体を使って太い刷毛のように、恵の陰部を舐めている。
“さあ、充分に恐怖感と期待感を味わえよ。”
恵は正に、皮を剥かれ、ただ食べられるのを待つ桃のようであった。身を守る何物もなく、男の顎から滴り落ちる毒液に身を震わせて破滅の時を待つのみだ。男はそんな恵を嬲るように、徐々に舌先を移動させていった。
大陰唇を舐めていた男の舌は徐々に上に上がっていき、クリトリスの根本を舐め始める。クリトリスは男性の亀頭に相当する部分だが、男はその根本、男性で言う陰茎の上筋部分を舐めていた。
肉付きの良い女性では恥丘の肉に埋もれてしまうこともあるが、恵のその部分はくっきりと盛り上がっている。
男は舌先で舐めつつ、右手の親指と人差し指でそのクリトリスの胴と言うべき部分を挟み、ゆっくりとしごき始めた。
「んっ…」
思わず鼻息が漏れる。
夫を含めて二人しか男性経験のない恵は、その初めて受ける行為にとまどった。クリトリスを攻められるような強い刺激ではないものの、じわじわと性的快感が湧き上がる。
“うそ、そんなはずない…”
己の感覚を否定する恵。しかし、それは確実に存在していた。
次第に高まっていく性感は着実に恵を追い込んでいく。
そして、遂に恐れていた瞬間がやってきた。男が剥き出しになったクリトリスを舐めだしたのだ。
「あっ…」
声をこらえようにも、麻痺した口と舌では上手くできずに、恵は反応を示してしまう。
男のしごきにより包皮を剥かれた恵の肉芽は、恵の心を裏切ってぷっくりと勃起している。男は決して慌てず、ほとんど触れないかどうかという圧で、そっとクリトリスを舐めていた。
「んっ…ん…」
強い刺激なら、それと等分の反発もできようが、優しすぎる舌使いはそれすら許さず、恵は為すすべも無く断続的な声を上げている。
“イヤ…絶対感じたくない!”
拒絶の意志を声に出して表明しようにも、上手く舌が回らない。しかも、セックスしてくれと自分で頼み込んだ手前、今更イヤだとは言いにくい。それに、この行為の拒否は恐怖のイラマチオを許容することと同義だ。
いっそ「私が感じないように犯して下さい。」とでも言おうか?いや、それこそ有り得ない…。
拒否も許容もできないまま、恵は男の愛撫に身を任せるだけだ。
“このままじゃ、いつか喘ぎ声が出てしまう。レイプされて気持ちいいなんて、それじゃ、もうレイプじゃない…。そんな事になったら、助かったとしても夫に顔向けできない!”
事ここに至って、ようやく事態の深刻さに気づく恵。
そう、今こそ真なる貞操の危機であることに。
しかし、いかに自らが置かれた状況が危機的であることに気づこうとも、周到に練られた策にはまり込んだ恵に打つ手はない。ほじくり出される快感に呻き声を上げるばかりだ。
「あ…あっ…」
男は、クリトリスを数回舐めると、再び大陰唇の内側を舐め始めた。指は肉芽の胴をしごいている。
恵は眼前の危機が去ったことにほっとしたが、高まりを見せた性感は落ちることなく、依然、平坦な状態で維持されていた。
このまま徐々に快感を積み上げられれば、最後には恐ろしい程の絶頂がやってくる。それに私は耐えられるのだろうか…。
恵は、一息に攻めてこない男の慎重さに恐怖していた。
そんな心配を見透かしたように、男の愛撫は更なる変化を見せた。
今まで恵の内太腿に置かれていた左手が、ゆるゆると上に向かって動き出す。
広範囲に繁る陰毛の林を抜け、なめらかな腹部の丘を越えて、浮き上がる肋骨を伝い、胸の中央に辿り着いた男の手は、そのまま動きを止めずにゆっくりと右の乳房に向かってスライドしていく。
Aカップの乳房は、どこが胸板との境界だか分からないほど貧相な盛り上がりしかない。しかし、男の手はその小さな差異を的確に捉え、円を描くように乳房の外周を撫でさする。
そしてその手が描く軌跡は、中心にある恵の乳首に向かって少しずつ渦を巻きながら近づいていった。
「あ…あぁ…」
いつしか、恵は目を閉じていた。
まもなく訪れるであろう乳首への刺激に耐えるため、男の左手に意識を集中し、心の準備をしている。
“あと少し”
指先が小さな、しかし濃いブラウンの乳輪に触れた時、男は大陰唇の内側を舐めた勢いを止めずに、そのままクリトリスを舐め上げた。
「あぁっ…!」
予想外のタイミングで、予想外の箇所に与えられた刺激に、全く抵抗できず声を上げる恵。しかし刺激はそれだけで終わらない。
次の瞬間、男の指は恵の右乳首をとらえ、指の腹で軽く潰すように、身体に比べて少し大きめの乳首をこねくり回した。
「あぁん!!」
フェイントにより脆くも崩された心理的防御の壁。
恵の口から先程より大きな嬌声が零れる。
男にとって恵の様に経験の少ない女を手玉に取ることなど、造作もないことだった。
“さあ、メス豚への道を転がり落ちてゆけ。”
男はついに本格的に恵を翻弄し始めた。