6.幽囚-9
「汚なっ……!!」
一歩前に踏み出そうとした瞬間、
「だめ、動かないでっ!」
「……っ、……!」
と、いきなり大きな声で男に制され、思わず脚を止めてしまった。
「……動いちゃ、だめ、だよぉ……、くくっ」
背後から体を密着させてくる。
(はあっ……、あ、危ない、危ない……)
村本は悠花の腰に男茎の先が触れてしまった時、危うく爆発しそうになっていた。男茎は「これから」を想像するだけでも、新たな淫欲が充填されて暴発寸前になっていたから、もう一度、接近する際は悠花の身体に触れないよう、細心の注意を払った。
「やめ……、やめてよ、ホント。何がしたいの?」
「ほら、顔上げて鏡見て?」
ついさっきまで、男の挑発は想定の範囲内だったから、対応にも余裕があった。だが背後から迫る男には予測不能の恐怖を感じる。
「だからっ……、何を――」
「鏡見て? ちゃんと鏡見てるかチェックしとくからね? ……、ほーら、悠花ちゃん? いい、のかなぁ? 写真。しゃ〜、し〜んっ。ねっ?」
耳元で声がすると、悠花は逸らしていた目線を正面に向けた。鏡に映っているのは間違いなく自分自身だ。そしてその直ぐ背後に、全裸の体毛の濃い中年男が身を寄せてきている。
悪夢のような光景だった。
「……そうそう、ちゃんと、鏡、見ててね……」
と言うと、男の両手が腰の辺りに伸びるのが見えた。ゆっくりと、デニムミニの側面を両側から揃えた人差し指と中指でなぞって降りてくる。
――そして、その指が悠花のデニムミニの裾を両側から摘んだ。
「ちょ、ちょっと! ……え、なに?」
「くくっ……、じゃ、瀬尾悠花ちゃんのパンティ……、見せてもらうねぇ?」
クイッと指の力が上方へ掛かるのを感じて、
「え、ちょ、ちょっと待ってっ。さっき……、見せる、あ、……見せてあげる、って言ったでしょ?」
そう言うあいだに、デニムミニの前面に横シワが生まれた。今までデニム地に覆われていた部分の素足が外気に晒されている。それはほんの少しではあったが、これから男がしようとしていることを悠花に嫌というほど分からしめた。
「そうだね……。くくっ、悠花ちゃんは、見せてあげる、って言ったよねぇ……」
更に一つ、デニムミニにシワが寄る。
「だから――」
「ふふっ……。悠花ちゃんのことだから、見せるほうを選ぶんじゃないかなって思ってたよぉ? 人気モデルさんだからねぇ。俺みたいなカワイソウな男に見せてあげる、っていう体にしたかったんでしょ?」
それは悠花が言ったとおりだった。下劣な男に屈することなく、自ら見せてやることで、恥辱を躱そうとしたのだ。
ゆっくり時間をかけて、まるで焦らすかのようなペースで、男の指はデニムミニを押し上げていく。
「っていうより……、こんなふうに俺に捲られて、パンティ見られるのなんか絶対嫌だったんでしょぉ?」
自分では言葉にできなかった心理の奥を言い当てられて、悠花は頬が熱くなるのを感じた。思わず下唇を噛んでしまって、慌てて表情を取り繕おうとする。
「だーかーらっ、くくっ……。見てあげるんだよぉ? 悠花ちゃんが選ばなかったほうの方法でねっ。ほらほら、キレイなオミアシがだいぶん見えてきたよぉ〜? あはっ」
最後のキモ笑いが更に悠花の羞恥心を煽ってきた。どちらを選んでも、男は悠花とは逆の方を選んだのかもしれなかった。対等に渡り合っているように見えて、実はその策略に嵌っていたのだ。そう思うと悔しさと情けなさが募り、今行われようとしている行為に対する心の防御が整わず、その隙を突いて、遂に羞恥心が頭の中を支配していった。