黒魔術師の妹の恋愛事情-1
先日、兄である真彦から聞かされた言葉。
「光輝が俺達の高校の三大美人の一人って人に告白されてたぞ」
その言葉に、黒須小春は内心かなり焦ってしまった。結局光輝はそれを断ったと聞かされ、どれだけ安堵したことか。
小春は何時からか光輝に好意を寄せているのだった。兄の次に身近な男性であり、顔も整っており、尚かつ優しい。中学の時も光輝は影でモテていたが、高校生になってもモテるんだなぁ、と、小春はため息を吐いたのだった。
そして今日。またもや兄から嫌な話が飛び出したのだ。
「今日さ、校内三大美人の最後の一人が光輝に告白して振られたんだよ。それでなんだけどさ、光輝の好きな奴って誰だか知らないか?」
「え…?」
「何でも、光輝には凄く好きな女の子が居て、その子を諦めきれないから断ったんだと。小春は知ってるか?」
「そ、そんなの知らないよ…」
むしろ私が知りたいのに…。小春は心の中でそう呟いた。
小春も光輝に告白すればいいのだが、それもなかなか出来る事ではない。よく言う、『幼馴染みの関係を崩すのが恐い』ていうように、告白を急いで失敗し、それまでの関係が崩れていくのが恐いのである。しかも、光輝と兄・真彦の関係までギクシャクしたらさらに大変だ。
「光輝先輩…」
小春は静かに悩むのであった。
翌日、小春は友達の白井恵子と二人で下校していた。そんな時だ。
「ったく、俺が何かしたかよ?」
「何かしたからこんなになってんじゃねーの?」
聞き慣れた声にそちらを振り向くと、そこに居たのは光輝と真彦だった。
「あ!あの人かっこよくない?」
恵子も気付いたらしく、二人を指差しながらはしゃいでいる。
「先輩…」
「え、何何?小春ってばあの人の事知ってるの?やだー紹介してくんない?」
小春の呟きを聞いたからか、恵子はさらにはしゃいでいる。
「何だ、誰が騒いでんのかと思ったら小春ちゃんじゃんか。今帰りなんだね」
光輝が気付き、真彦を連れて小春達の方へ近づいてくる。
「今日は友達と一緒なんだね」
「さっき荒れてたけど、どうかしたんですか?」
小春が尋ねると、真彦は見せてやれよと光輝に促した。促された光輝が鞄の中から出したものは、袋詰めにされた大量の手紙だった。
「これ全部ラブレターなんだぜ?こいつ今まで手が出しづらかっただけで、影で相当モテてたらしくてさ。そんで二人に告白されたのを期にこの有様さ」
真彦は呆れたようにそう言った。
「それなのに!こんなにモテるにも関わらず、皆断るときたもんだ。よっぽど一筋なんだねぇ、例の女の子に」
横目で見る真彦に光輝は視線を合わせない。
「…誰と付き合うかなんて、俺の勝手だろ?」
光輝の顔は少し赤くなっている。
そんな時だった。
「あの…私、白井恵子って言います。もし良かったら私とお友達になってもらえませんか?」
この状況でまだそんなことを言う人がまだいたのか…。友達である小春を含め、その場の恵子以外の三人が皆そう思った。しかし。
「私…あなたみたいな人が好みなんです!」
「え?」
「お?」
「は?俺なの?」
恵子の熱い視線の先に居たのは、光輝ではなく真彦であった。不意打ちを喰らった様な感覚に襲われる真彦。
「そう言えばお兄ちゃんもルックスだけ見ればカッコいい部類に入るのかもね…」
小春は他に気付かれないくらい小さい声で呟いた。