濡れた身体で雨宿り<前編>-4
振り向かせたはいいものの、あまりの近さに視線を外す悠二。
私もまた、恥ずかしくて目を逸らしたものの、
背を向けるのも感じ悪いかなと思い、
そのまま、悠二の胸へと顔を埋めるよな体勢で話しかけた。
「や、やだなぁ……別に気落ちなんかしてないよ?」
「そ、そうか?いや、それならいいんだけどさ……」
気まずい雰囲気の中、上手く身動きも取れず、妙にぎくしゃくしてしまう二人。
でも、このまま黙っていても埒があかない。
何か話掛けなきゃ。
なんて、頭ではそう考えながらも、
普段からは想像出来ないほどに、ふたりとも黙り込んでしまっていた。
「……美樹?」
「ひゃい!」
「寒く……ないか?」
「あ、うん!大丈夫だよ?その、すごく暖かい……かな?」
その言葉に嘘は無かった。
けれど、それはぽかぽかするなんて暖かさではなくて、
カーッと体の芯から熱くなるような、どこか火照りに似た暖かさ。
手のやり場に困った悠二が、何気なく私の髪を弄りはじめる。
はらはらと高い位置から落としてみたり、くるくると指に巻いてみたり、
たかが髪の毛を弄られているだけなのに、
なんだか全身を撫でられているような感じがして、どうにも落ち着かない。
「ゆ、悠二ってさ!意外とその……胸板厚いんだね?」
私は何を思ったのか、
突然、手を悠二の胸に当てながらそんな言葉をつぶやいた。
元彼はもっと華奢な体付きだったかな?
こんなにぼこぼこしていなかったし、もっと色白だった気がする。
「な、なんだよ急に?たまには私もこんな厚い胸板に抱きしめられたいってか?」
そう言って、冗談交じりに悠二が笑う。
私もまた、つられて笑ってしまったけれど、
ひとりが長いと言う事は、
つまりはそういう行為も随分とご無沙汰なわけで、
思いがけぬ人肌に、どこか欲情してしまっている自分がいるのもまた否めない。