5.姿は作り物-1
5.姿は作り物
すれ違うサラリーマンが通りざまに一瞥してくる。サングラスで顔を隠していても、クロエのバッグをかけた腕を、羽織ったストールを抑えるように組んで、背筋を伸ばし、長い脚で颯爽と歩く8等身はどうしても目を引いた。
しかしサングラスの上で険しく寄せた眉だけでも、決して上機嫌ではないことが分かる。一人で歩いているわけではない。すぐ傍に冴えない中年男が歩いていた。並ぶと、組み合わせの釣り合いなさが際立つ。
「は、悠花ちゃん……、もう少し傍を歩いてよ」
「っさいな……。っていうか、名前呼ばないで」
村本が、一歩遅れて斜め後ろを歩く美人モデルを振り返ったが、悠花はまっすぐ前を見据えながら口元だけを動かして答えていた。
「くくっ、ゴキゲンナナメ、だねぇ」
「当たり前でしょ? あんなキタナイの見せられて……」
一度射精したことで、村本の吃りは少し収まっていた。興奮が冷めたわけではない。放出した後でも、チノパンの中はブリーフを突き破りそうなほどに強く張り詰めていたし、悠花と並んで歩いている間でも、新たに装着したコンドームの中に先走りの汁を漏らし続けていた。
街中を歩く颯爽としたスタイルの美人モデルの姿を見るにつけ、ついさっきまで、己の汚らしい肉棒と、劣情が先端から噴き出す様を見せつけてやったこと思い出し、悠花を見やってくる通行人、特に男たちに対して言いようもない優越感を感じた。吃りが収まり始めたのは、この余裕のほうが大きい。
そして頭の中で余裕ができた分、悠花に対するより強い淫欲が巻き起こっていた。
この誰もが羨む、美しいモデルを、これから「思う存分自由に」できる――
ずっと溜め続けていた精液を、悠花の見ている前でぶちまけ、全く萎えてこない男茎からコンドームを外すと、つまんでぶら下げたその大きさと重みに、我ながら驚いた。これほど出した経験はなかった。溜め続けていたせいというのもあるが、やはり画像や雑誌ではない、そして想像の中ではない、生身の悠花によって、量も濃度も増したのだ。
結んだコンドームを、トイレの中に据えられた洗面台に置くと、
「そんな所に捨ててかないで」
悠花は放出後ずっと村本から目を逸らしていたが、村本がチノパンのジッパーを上げると、ようやく目線を向けた。
「ふふっ……、じゃ、悠花ちゃん、き、記念に持って帰ったらぁ?」
「死んで」
吐き捨てるように言う悠花を尻目に、村本はドアに耳をあて向こうの様子を伺った。誰もいないことがわかると、音がしないように薄くドアを開け、
「じゃ、外で待っているよ」
と、本当にコンドームも悠花も置き去りにして出て行ってしまった。
残された悠花は洗面台に転がる、大きく膨らんだコンドームをどうしようか迷った。四角に象った受け皿は藍色をしていたから、余計にコンドームの中が透け見えていた。肉体から放出したとは思えない量、黄ばんだ澱み……。コーヒーショップの店員が見つけたら驚愕するだろう。しかもここは婦人用トイレだ。
容姿には幾ばくの自負があるし、そうでなくとも女性客は自分一人だったから、目を引いて記憶に残っているかもしれない。そうなったら、コレを残していったのは自分と気づかれるかもしれない。
しかし当然のことながら、とても持って出る気には到底なれなかった。手を触れるどころか、近づきたくもない。
悠花は息をついて立ち上がると、トイレを出た。幸い誰もこちらに目を向けている者はいなかった。何事もなかったように店内を抜け、外に出ると、男は出て少し離れたところでニヤケ顔で自分を待っていた。