投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

LOVE AFFAIR
【アイドル/芸能人 官能小説】

LOVE AFFAIRの最初へ LOVE AFFAIR 45 LOVE AFFAIR 47 LOVE AFFAIRの最後へ

5.姿は作り物-6

「こういうスタイルに……、このヘアスタイルってアリなの?」
 と店員に問うた。
 店員は一歩下がり、目を細めて悠花の全体像を見ながら、
「ん〜……、言われてみれば……、髪は下ろしたほうがいいかもですねぇ」
 ショップ店員としての美的センスに照らし、ヘアスタイルのアレンジ不足を指摘される。
「えっ!?」
 悠花は慌てて言った。「げ、現場に着いてからでもいいんじゃない?」
 今の姿はあくまでも試着であり、もう一度ブラウスとスキニー姿へ戻るつもりでいた。まさかこの姿のまま店を出るのか。
「いや、現地ではあまり時間がないんだ。今のカッコのまま行こうよ」
 と、村本は店員に隠れ、悠花のほうを半笑いで見ながら言った。
「あー……」
 店員がポン、と手を打つ。
「じゃ、ちょっと裏でヘアセットしましょうかぁ? 実はスチームアイロンあるんですよぉ、……私物ですけど」
 余計なことを、と悠花が眉を顰めているのを店員は気づかずに、
「実は私、美容学校出てて、半年だけですけど店でも働いたんですぅ。なので、そんなおかしな感じにはならないと思いますよ。髪下ろして、毛先だけゆるーく巻けば、いい感じになると思うんですけどぉ……」
(やはり、今の俺はツイてる……)
 もともとこの店のことは事前に調べてあったが、もちろん店員の経歴までは知る由もない。悠花をより美しく自分好みに飾るために、計画には無かった思いつきで言った言葉に、村本はまるで世間のほうが自分の味方に歩み寄ってきてくれているように思えた。
「ああ、それは助かるよ」と試着室に立ったままの悠花を見て、「やってもらおう」
 と言った。
 ちょっとっ、と唇の動きだけで睨んで非難したが、
「じゃあ、少し裏にいきましょぉ」
 それに気づかない店員に言われては、渋い顔つきで試着室前にブーツキーパーで立て掛けられていたニーハイに手を伸ばすしかなかった。
「おいおい、店はいいのかい?」
「えーっと、まぁ、ほんとはよくないんだけど、大丈夫ですぅ。平日あんまりお客さん来ないので。誰か来たら、裏にいてもわかりますからぁ。……あっ、試着用のミュールありますから、履いてもらって大丈夫ですよぉ」
 店員はブーツを履こうとしている悠花の前にミュールを差し出した。店員にとっては商売よりも、有名人気モデルのヘアセットをさせてもらえることのほうが重要で、目に見えてウキウキとしていた。
「じゃ、ちょっと行ってきまぁす」
 促されると、悠花は仕方なくペディキュアに飾られた爪先をミュールに入れて、踵を床に鳴らしながら店員についていった。
「ちょっと狭いかもしれないですけどぉ」
 "STAFF ONLY"の扉の向こうは確かに狭く、奥行きはあるが幅の無い縦長の部屋だった。一番奥の壁に鏡が設置してある。接客する前に、身装をチェックするためのものだろうか。
「じゃあ、すみません。この椅子に」
 店員が傍にあった古い椅子を引いてきて鏡の前に置いた。
「……どうも」小さな声で背筋を伸ばして座ると、鏡越しに後ろを見やりながらサングラスに指をかけ、「取らないと、ですよね、これ」
「あ、はい、そうですね。お願いします」
 店員はスチームアイロンに巻きつけていたコードをくるくると解いてから、「えっと、じゃ、失礼しますぅ〜」
 サイドアップのUピンを丁寧に抜き取り、ブラシで髪の流れを整え始める。学校で学び、半年とはいえヘアサロンで働いていたことは確かなようで、手さばきなどは撮影時のプロの担当に大きく劣るわけではなかった。
(――何でこんなカッコしてんだろ……)
 鏡の中の自分を茫漠と眺めながら思った。椅子に座り、裾を押さえるように手のひらを揃えて置いているが、生脚が丸出しになっている。あの男の前でこの姿を晒したくない、と心底思う。普段こんな系統の格好はしない。あの男のためにした――いや、させられた姿だ。


LOVE AFFAIRの最初へ LOVE AFFAIR 45 LOVE AFFAIR 47 LOVE AFFAIRの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前