5.姿は作り物-2
「そ、それにしてもぉ……」
村本は歩きながら、「改めて見るとぉ、今日のカッコ、すっごくキマってるねぇ。み、みんな振り返ってるよ」
(話しかけないで)
まだ悠花は射精を見せられたこと、そして 男の自分への図り知れない妄執を知ったショックから完全に立ち直ってはいなかった。村本が話しかけても無視し、視線をずっと前に向けている。
「で、でもぉ、やっぱり俺は、スカートの方が好きだなぁ。特に、ミ、ミニスカート」
「……」
「悠花ちゃん、脚、超絶キレイだからね。やっぱりミニが良いんだぁ。『La Moda』でもスカート履くけど、膝くらいだよね。もっと短いの履いたりしないの?」
悠花は、はあっ、と聞こえるように息をついて立ち止まり、振り返った村本を睨みつけ、
「だからっ……。名前呼ばないで、って言ってるでしょ? バカなの?」
と、小さちながらも強い口調で言った。
「ふふっ……」しかし、村本は大して怯んだ様子もない。「……写真。俺が持ってるってこと、わ、忘れちゃだめだよぉ?」
「……!」
反射的に下唇を噛んでしまう。
そうだ、そのせいでこんな目に会っているのだ。何としてでも取り返さなければ全て、今日まさにここにいることすら、台無しになってしまうのだ。
「ほんっと、最低だね」
「……で? 履かないのぉ? ミニ」
もう一度息をついて、少し間を置いた。その間に見失いそうになっていた『演技の自分』を取り戻す。
「さぁ? 履きたきゃ履くんじゃない?」
と言ったが、悠花は個人的にはミニスカートは殆ど持っていなかった。ミニといえばせいぜい膝上数センチのAラインスカートであり、太ももが半分以上見えるものは持っていない。脚を露出するにしてもホットパンツやキュロットスカートだ。専属誌が掲載するファッションの系統でも、極端に短いスカートは、ほぼ扱われない。もちろん仕事とあらば履くが、個人的には、スカートで脚を出すというスタイルは趣味ではなかった。
「じゃあ、是非、今日履いてきて欲しかったなぁ」
悠花は歩みを再開しながら、
「あんたなんかのためにそんなカッコ、するわけないでしょ?」
と、やはり前を向いて村本とは目を合わせなかった。
「ふふっ、残念っ」
「――そんなことより、どこ行くの?」
悠花は村本が足を向ける方に付いて歩いているだけだ。
村本はコーヒーショップを出た後、山手線とアメ横を横切り、恩賜公園の方面と足を向けていた。アメ横界隈までくると、平日とはいえ若者の姿が目につくようになる。中には学生服やセーラー服姿の、中学生くらいの子供たちがいる。地方の修学旅行生だろう。
「まぁまぁ……。こっちだよ」
あまり街を歩いて姿を晒したくない。掲載誌の購読年齢層の女性はあまりいなかったが、もう中高生くらいの女の子であれば、自分のことを知っていて、声を上げて存在を周囲にバラしてしまうかもしれなかった。
「ちょっと――」
村本は上野駅に近い、ファッション店などが多く入る総合商業施設へと悠花を引き連れていった。すぐ上を鉄道が走っているから天井が低い通路には、平日なのに結構な人が歩いていた。
「ねえ」村本が少し歩みを緩めて悠花に近づくと、前方を指して、「ああいうお店の服は、着たりしないの?」
村本の指先の延長線上にセレクトショップがあった。悠花は一度も入ったことが無い店だが、都内に何店舗かあったはずである。
「あんなの着るわけないでしょ?」
その店の扱うアイテムは悠花の趣味ではない。
ふぅん、と村本は鼻を鳴らすと、その店に向かってまっすぐ歩き始めた。
「あっ、ちょっ……」
悠花が呼びかけた時には、村本は足を店舗へ踏み入れていた。