姉妹-3
３．
エアーポートは、騒音対策による夜の発着制限時間を過ぎて、静まり返っている。 シドニーの晩秋の空気は澄み切って冷たい。
啓介は雅子を送って、駐車場まで並んで歩いた。
深刻な話題に、ついグラスを過ごしすぎたか、火照る頬に、触れる冷気がむしろ心地良い。
雅子は、ランサーGTRのドアを開けようとして上体がよろめいた。啓介が脇から支えると、雅子は身体を孝夫に凭れたまま、ふうぅぅと息をついた。
「雅子ちゃん、一寸飲ませ過ぎちゃったねえ」
啓介はこれじゃ危ないから僕が運転して行こうと、雅子を助手席に乗せた。
啓介がエンジンをスタートさせて、シフトに手を伸ばすと、雅子の手がそれを抑えた。
「一寸待って、啓介義兄さん、さっきの続きなんだけれど・・・・もし、もしもね、・・・あくまでも若しもなんだけれど・・・、姉さんが亡くなるようなことになったら、どうするつもり？ はっきり言って、それは時間の問題なのよね」
沈黙が続く・・・
「思い切って言ってしまうけれど、あたしをそのまま、啓介義兄さんの傍に置いてくれないかしら」
啓介は、エンジンのキーを切った。
フロントガラスから射し込む駐車場のライトを、啓介の頭が遮った。
雅子は、ヘッドレストに頭を預けた。 啓介の息遣いが近づく。 雅子は、軽く唇を開いて待った。啓介の唇が、優しく雅子の唇に重なる。 雅子は、啓介の唇を吸った。 ブランデーの甘い香りが微かに口に漂う。 心地よい痺れが身体に広がる。
啓介の指先が、乳房を求めてくる。 雅子はシートに凭れて、啓介のなすがままに任せた。 上体を啓介に引き寄せられて、右の腿が、サイドブレーキのレバーに当たって痛い。
「部屋に行こう」
啓介の声が、耳をくすぐる。
部屋のドアをロックすると、啓介は雅子の腰に両腕をまわし、唇を求める。 雅子は啓介に押され、壁を背にして啓介の体重を支えた。
啓介の唇が、頬から首筋へ、そして再び唇へと這う。
啓介の指がブラウスのボタンを外した。 後ろに回った指先がブラジャーのフックを外すと、啓介は床に膝をついて上体を伸ばし、乳房を口に含む。 啓介の髪が、雅子の鼻先に触れる・・・・男の匂いが鼻腔をくすぐる。 雅子の膝の力が、抜けた。
４．
啓介は雅子をベッドに横たえると、ブラウスから、ブラジャー、スカート、パンティと外していった。 雅子も身体を反らせ、腰を浮かせて、啓介に手を貸した。 啓介は、手早く自分のジャケット、シャツ、そしてズボンは下穿きごと一気に脱ぎとると、傍らのソファーに放り投げた。
裸身の雅子は、天井を向いて、気を付けの姿勢でベッドに横たわる。 わずかに手のひらが、股間の茂みを覆っている。
成熟して、艶々と張りのある肌。 豊かな胸、括れた胴から、骨盤のしっかり張った腰、むっちりと厚みのある腿への滑らかなカーブ。 さながらヴィーナスのように美しい。
着やせのする雅子は、和服や中国服の似合う女だ。 全裸になった雅子は、着物の上からは想像のつかない豊かな肢体を持っていた。 首筋から胸、胸から腹、腹から腰、腰から腿、腿から足へ
と目で追いながら、啓介は我を忘れて立ちつくした。
雅子は、自分の身体の隅々に康夫の視線を感じた。 それは心地よかった。
（啓介義兄さん、よく見て、これがあたしの体よ、きれいでしょ。 こんな姿、今まで誰にも見せたことないのよ。 義兄さんには見て欲しかった）
（姉さん、あたし今までいつも姉さんの影で、出番がなかったわ。 あたしは、姉さんを裏切るつもりはないのよ。 分かって欲しいわ）
（義兄さんは、まだ若いわ。もし姉さんに万一のことがあったら、男盛りの男一匹、いつまでも一人身ではいられないわよ。 姉さんだって、どこかのわけのわかんない女になんかに、取られたくないでしょ。 由美ちゃんのこともあるでしょ。 あたしなら、自分の子供として立派に育てて見せるわ。 義兄さんを、あたしに譲ってください。お願いします）
（啓介義兄さん、どお、あたしの身体、気に入った？ 気に入ったら抱いてください。 あたしは、昔から義兄さんが好きだった。 会社で小野小町と嘲られながらも、何時の日か、義兄さんと結ばれる時を夢見て、身を守ってきたのよ。 結局、苦しくなって、オーストラリアに逃げ出してしまったけれど。
義兄さんが出張でオーストラリアに来たときは、抱いて欲しかった。 例え、旅の恥は掻き捨てでも良いから。 でも義兄さんは姉さんに誠実だった。 私は、姉さんのだんな様を寝取るつもりは毛頭ないのよ・・・。 あたしは、古い女なの。 義兄さんに女にしてもらったら、後は自分で自分の道を探すつもりだったのよ。
でも、事情が変わったわ。 義兄さんが一人になるなら、どんなことをしても、義兄さんと一緒になりたいの。）