泥棒シンデレラ-2
夕飯を終えて、部屋のドアがノックされた。
「舞ちゃん…、ちょっといい…?」
ドア越しの万優子の声は、重く沈んでいた。
まさか…、私がした事がバレてしまったのだろうか…。
緊張で顔が強張るのを堪えて、私は、
「どうぞ…」
いつも通り言葉少なく応えた。
ドアが開き、肩を落とし、うつ向いた万優子が部屋に入ってきて、
「…舞ちゃん…、私…、秀明に電話でフラレちゃったよ…」
「は…?」
弱々しい笑顔で呟いた万優子に、動揺が隠せなくて。
「ど、どうして…」
「本当の気持ちに気付いたんだって…」
「本当の…気持…ち?」
どういう意味かと万優子に視線を向けたら、
「やっぱり私じゃなかった…って」
万優子はぐっと涙を堪えて、私に、
「本当に好きだったのは…」
強い瞳を向けて、
「舞ちゃんだって、秀明に言われた」
そう言って、堰を切ったように涙をながした。
「そ…そんな…、だって…、あなた達いつも凄く…仲が良くて――」
「違うよ! 仲が良く見えるように、私が頑張ってただけだよ! いつだって怖かった! 秀明が、舞ちゃんの事ばかり見てる事が…。秀明は本当は私じゃなくて舞ちゃんが好きだって…、私にはわかってた…」
そう言って、万優子は、ずっと抱えてた胸の内を私に打ち明けた。
「私…、本当は、初めて秀明に告白した時に一度フラレちゃったの。秀明は舞ちゃんが好きだって。告白するつもりだって言われた」
「え…?」
「舞ちゃんも秀明が好きだって、気付いてた。だけど、私は舞ちゃんに秀明を渡したくなかったの。だから…、私…、舞ちゃんのふりして…秀明を遠ざける言葉と、万優子と付き合ってあげてって…言っちゃった…」
「万優子…」
万優子の告白に、私はただ、ただ、驚いてしまう事しか出来なかった。
「バイトの男の子の話しをしたのは、秀明に焼きもち妬いて欲しかったから。焼きもち妬くくらいに私だけを好きでいて欲しかったから…。それが、こんな事になっちゃうなんて…」
万優子は涙を拭って、
「だけど、私、謝らないよ。だって、舞ちゃんだって、私と同じように、私に成りすまして秀明に会ったんでしょ? だから卑怯はおあいこだよ」
「…ごめん…」
「謝らないでよ! 舞ちゃんはいつだってそうだ! 舞ちゃんはいつだって冷静な大人みたいで、私は落ち着きのない子供みたいで! 私だって舞ちゃんみたいにおしとやかで長い黒髪の似合う、綺麗な子になりたかったよ!」
万優子は、泣きながら私に訴えたけど、
「私は、万優子になりたかったよ! 万優子みたいにいつだって活発に楽しく笑える私に、日向の似合う私になりたかったよ! いつだって嫉妬してた! 眩しいライトを浴びて笑うのはいつだってアンタだ! 顔も声も体も同じなのに! いつだって私は日陰に隠れた地味で誰にも見向きもされない存在で! なんでも苦労なく手に入れてきたアンタが憎らしいって思ってた」
堪えていた気持ちが、胸の中から言葉として溢れてしまった。そんな私に、
「私達って…、本当によく似てるね…」
「万優子…」
万優子は、私を抱き締めて、
「お互い、ないものねだりばかりして…、お互いに嫉妬して…、悩んで、傷ついて…」
小さく笑って、
「もう、ないものねだりばかりはやめなきゃ。私達は、元々はひとつだったけど、生まれて育って、色々な経験を経て、二つになったんだから。私と舞ちゃんは顔や体は似てるけど、心は全然違うもの」
「…うん」
「だから、舞ちゃんは秀明に選ばれた。秀明が大切にしたいのは舞ちゃんだから…。だから…」
万優子は、
「もう、やせ我慢はやめて、いっぱい幸せになってよね…?」
そう言って、泣き笑いを私に向けた。
「…なるよ」
私も、溢れて止まらない涙目を万優子に向けて、
「私は高科君が好きだよ。高科君と幸せになりたい」
ずっと言えなかった言葉を万優子に告げた。
「私だって幸せになるもん! 舞ちゃんには負けないから!」
万優子はそう言って笑って部屋から出て行った。