喪服と薔薇-1
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―――ザワザワ・・・ザワザワ・・・
厳粛な雰囲気の中で進められていた葬儀の幕がようやく下ろされた。
それをきっかけに、今まで沈黙を保っていた人波が建物の出口に向けてゆっくりと動き始める。
(・・・どうも私には不似合いな場所だね、こういう重いのは・・・まぁ、今日はアルの代理なんだから仕方ないか・・・)
先程まで参列者の後方に位置し、今は動き始めた人波の中に紛れて大広間から外に抜ける回廊を歩きながら思わずシフはため息混じりにひとりごちていた。
―――かつて世界の運命をかけて邪神サルーインに挑んだ戦士達の1人、バルバル族の女傑 シフ。
サルーイン戦の後かつて自分が鍛え上げ、またかねてから恋仲であったアルベルトに求婚され、年齢差はあったもののめでたく結婚。現在は復興途中のイスマス城主夫人という、今までのシフの立場とは文字通り対局の座に収まっている。
現在イスマス地方の復興作業も順調に進み、一方で世界の平穏な状況とは反比例する形で城主夫人としてのシフがこなしていく公務も増えてきていた。
今日は若き夫に代わって、隣国の城主の葬儀に慣れぬ喪服を着て参列していたのである。
本当なら城主たるアルベルトが参列するところだったのだが、現在ローザリア国王ナイトハルトの王妃におさまっている姉ディアナと2人で休暇をとっており、今日のシフの参列となったわけだった。
(・・・いくら姉さんとは久しぶりの休暇といっても・・・もうこれ以上は・・・)
歩きながらもシフは密かに頬を赤く染め、思わず足下に視線を走らせる。
公務以外でシフが耐えられない“理由"――――
それは夫アルベルトとの夜の営みが半月以上ご無沙汰だからなのだ。
元々世間知らずでウブなアルベルトを“男"にするために、シフは彼に対して性のレッスンを施してきた。しかし今ではシフ自身が、アルベルトに激しく抱かれ一晩中絡み合っていなければ耐えられない肉体になってしまったのである。
戦いで鍛えられた締まったシフの身体は今男を求めて密かな叫びを発していたのである。
そうした体のうずきを我慢しつつシフは気付けば人波を抜ける形で城の外に出ていた。
城門をくぐり跳ね橋を渡ると、辺りは弔問客と迎えの馬車の群れででごった返している。
シフは人混みを掻き分けながら 自分を待つ4輪馬車を捜した。
もっとも馬車で待つ御者の方からは、
頭1つ高いシフを見つけるのは容易だったのだが。