とある日常【悠久の王・キュリオ】編 アオイの初めて[-1
「はぁ・・・」
ガッカリしたように青年は深くため息をつき、つまらなそうに目を伏せた。
その様子を目にしたアオイは悲しそうに唇を噛みしめる。
「ごめんなさい・・・お兄さん、私のせいでお兄さんに嫌な思いを・・・」
(お父様ならきっと誰にでも優しく、あたたかな愛をくださるはず・・・
どうして私ってこんなにだめなんだろう・・・)
「おい、泣くなよ?」
言葉こそ乱暴だが、差しのばされた腕は優しくアオイを包み込んだ。
「勘違いするな。お前が誰かのために流す涙なんか見たくねぇだけだ。キュリオ思っての涙なんて俺の前で見せんな」
「・・・?」
瞬きすればこぼれ落ちてしまいそうなほど、目を潤ませたアオイは上目使いに青年の顔を覗きこんだ。
「俺を想って流す涙ならいい・・・俺の言動やしぐさに流す涙なら大歓迎だ」
「だが、今はそれがキュリオなんだろ?」
(私が・・・私が流す涙はお父様を想って・・・?)
「わたしっ・・・お父様に嫌われたくない・・・っ・・・」
ぎゅっと服の裾を掴みきつく目を閉じた。
ポロポロと涙が零れ、わずかに足元を濡らす。
「・・・っほんと妬けるぜ・・・」
「ほら顔あげろ。
涙もいいが、それ以上に嬉しいのが笑顔だ」
「ここでお前の気持ちを無視して攫っても、お前はキュリオを想って涙を流すだろう。今日は引き下がるが・・・いつか俺に愛のある笑顔を向けさせてみせる」
青年は立ちあがるとアオイの体を優しく抱き上げ、傷ついた手の甲に視線をむけた。
「痛みはないか?」
「あ、はい・・・」
(・・・私のワガママできっとお父様を悲しませてしまった・・・
帰ったらちゃんと謝らなくては・・・もう泣かない、笑顔を見せなきゃ・・・)
「お兄さんありがとう、私自分のことしか考えてなかった・・・」
「・・・そうか。そうやって素直になれるお前なら、明日はもっといい女になってると思うぜ」
「お兄さんが目を奪われるほどにですか?」
「ははっ」
青年はアオイの耳元に顔を近づけると、甘い声で囁いた。
『・・・今でも十分にな・・・お前は俺の心をとらえて離さない・・・』
そして顔が離れる直前に頬に柔らかい感触を感じたアオイは、驚いたように男の顔を凝視した。
「いつか必ずお前の唇を奪いにくる」
「・・・?・・・は、はい・・・」
わけもわからず頷いてしまったアオイに青年はクスリと笑い歩き出した――――