とある日常【悠久の王・キュリオ】編 アオイの初めてZ-1
妖艶な紅の瞳に見つめられ、アオイの小さな体は射抜かれたように動けない。
「・・・お兄さんの国はどこにあるのですか?」
「悠久の外だ、それくらいはわかるな?」
「はい、あの、私まだ他の国のことをあまり知らなくて・・・」
ふっと笑った男は白く長い指先でアオイの頬をなでる。
「そんなことは後からいくらでも教えてやるさ。
お前さえ"一緒に来る"と言えば、俺はお前の父親にもなるし恋人にもなるぜ?」
「私の・・・お父様に?恋人・・・?って?」
まだ幼いアオイには"好き・嫌い"の感情はわかっても恋人という言葉はよくわからなかった。きょとんとした顔で小さく首を傾げている。
「お兄さんはどなたかに会いに悠久に来ているのですよね、
その方を迎えに来たのではないのですか?」
「それがお前だと言ったらどうする」
笑みを消し、先程のように真剣な眼差しを向けられアオイは困ったように俯いた。
「お父様が二人になるということを・・・その・・・お父様はお許しになるでしょうか」
「・・・キュリオの承諾なんていらねぇよ、あいつが頷くわけないだろ。
だから俺がお前を連れて行くときは攫(さら)うっていうんだ」
「父親にもなるって言ったが、それはあくまでお前の面倒を見るって意味で・・・目的はそこじゃねぇからな?」
己の考えと、目の前の青年の言葉の意味に大きな違いがあるとわかったアオイは彼を拒絶するように体を起こし距離をとった。
「お父様がダメというのなら私は・・・一緒に行けません。
お父様が悲しむようなことはしたくないから・・・」
「だが、その父親と何かあって出てきたんだろ?
言っとくが・・・お前くらいの年で自立してるやつなんて山ほどいるぞ」
紅の瞳がスッと細められ、鋭くアオイを突き刺した。
「私、まだ一人で眠れなくて・・・起こしてもらわないと起きられないし・・・」
「・・・・」
青年は顔色を変えずじっとアオイをみつめている。
「今日だって私が悪くて・・・」
だんだん小声になっていくアオイの顔は苦しげに歪み、時折熱くなった目頭から涙がこぼれた。