とある日常【悠久の王・キュリオ】編 アオイの初めてY-1
アオイが不思議な青年と心を通わせている頃、王宮では・・・
「まだ見つからないのかっ!!」
珍しく声を張り上げる不機嫌そうなキュリオの声が響いた。
話を聞いていない家臣たちが何事かと振り返ると、女官の一人が声をひそめた。
「キュリオ様がお声をあげるだなんて・・・きっと姫様がらみに違いないわ」
「カイはどうした?お傍に仕えていたのでは・・・」
「・・・詳細はわからないけどカイも探し回ってるみたいだったから・・・
まだ見つかっていないのでしょうね」
すると、苛立ちを隠せないでいるキュリオのもとに大臣が駆け寄ってきた。
「キュリオ様、姫様は我々が探しますゆえ・・・そろそろ御準備をお願いいたします」
「アオイより大事なことが他にあるというのかっ!!式典などどうでもよい!!」
王の正装を脱ぎ捨てようとし、慌てた家臣たちがキュリオの元へと群がった。
「お待ちくださいキュリオ様・・・っ!!キュリオ様が公の場に出られれば、
姫様もきっとお気づきになられると思います!!」
「そうですよ!!きっと姫様はあまりにも可愛らしいから・・・御客人に引き留められているだけです!!心配はいりません!!」
後者の言葉を耳にした家臣や女官たちは一斉に青ざめ、恐る恐るキュリオの顔を覗き見た。
『ば、ばかやろうっっ!!!キュリオ様の不安を煽ってどうする・・・!!』
『え・・・っ!?』
「・・・・」
時すでに遅く、キュリオは無言のまま立ち尽くしている。
「式典は中止だ。カイを呼べ」
有無を言わせぬ声色でキュリオは低く唸った。
足早に中庭へ進み、自ら公言しようと来客の間を風をきって歩く。
キュリオが姿を見せたことに着飾った女性たちからは黄色い歓声があがった。
「キュリオ様の御成りよ!!」
「きゃあっっ!!いつみてもお美しくていらっしゃるわ!!」
「お茶にお招きしてもらいたいわああっ!!!」
キュリオは向けられる好意の目も言葉にも一切興味を示さず、数段小高い場所に用意された玉座へと足をむけた。
その時・・・
「キュリオ様!!さきほどアオイ様が・・・っ」
客人の中から飛び出してきた男にキュリオは心当たりがあった。
何度もアオイを交えて言葉を交わしたことのある民のひとりだったからだ。
そして、アオイの名を聞いたキュリオが血相を変えて男に掴みかかる。
「・・・っ!!アオイがどうしたというのだっ!!」
「は、はい・・・実は女神殿たちに取り囲まれ・・・お持ちになっていた薔薇の花を踏まれそうになって・・・手にひどいお怪我を・・・」
「・・・そうか」
ギリッと唇を噛みしめたキュリオの口元からはうっすらと血がにじんでいた。
そして静かな怒りが徐々にキュリオの光を塗り替えていく・・・。
「・・・引き留めたのですがアオイ様はそのまま門の外に走っていかれてしまって・・・」
「わかった、報告感謝する」
ハラハラしながらキュリオの後をついてきた大臣が、数人の家臣へと素早く指示を飛ばす。
「門の外だ!!姫様はお怪我をなさっている!!
光弾の打ち上げにあたっていた魔導師を伴い探すのだっ!!」
「了解いたしました!!」
一斉に門の外へと家臣たちが散らばる。
遅れてキュリオの元に戻ってきたカイは散り散りになった家臣たちをみて後に続こうと踵(きびす)を返した。
「俺は森に向かいます!!」
「カイ・・・私はアオイに嫌われてしまったのだろうか・・・」
「え・・・?」
唐突なキュリオの発言に、カイは目を丸くしている。
「ここから逃げ出してしまいたいくらい嫌な思いをさせてしまったのかと思ってね・・・」
いつになく寂し気な眼差しで地を見つめるキュリオ。
(キュリオ様はアオイ様が愛しくて仕方がないんだ・・・)
いままで弱音を吐いたことのないキュリオ。
彼をこうまでするあの小さなアオイの存在に変わりなどいないのだ。
「いいえ、姫様はキュリオ様が贈った手紙も花も、あのドレスも大変喜んでおられましたよ。それに見合うよう、大きくなりたいとおっしゃっていましたから・・・気遅れしてしまっただけかと思います」
「・・・そうか」
「とっ!!早く見つけて差し上げないとっ!!」
他の家臣たちにおくれをとらぬよう、カイは全速力で門の外へと飛び出して行った。アオイの心情を考えれば、誰よりも気ごころの知れているカイが一番先に見つけてやるほうがいい。そのほうが彼女の心の負担も少ないはずだからだ。
そして唖然とする客人をそのままにキュリオはアオイの部屋へと引き返していく。
(あのドレスは・・・片づけてしまおう)
アオイの部屋へと足を踏み入れたキュリオはアオイのために仕立てたドレスをゆっくりと手中へとおさめ、自室へと戻って行った・・・