コーヒの香り-1
「ねえ、シャワー浴びてから何処か行かない?初詣とか。」平常心に戻った彼が言った。
「うん、嬉しい。・・・でも、人目につかない処がいいな。ごめんね。」千恵の中で今と現実は区別されていた。
「もちろん!そうだなー、鎌倉。鎌倉は?今からなら朝には着けるよ。どう?」
「行った事ないよ、鎌倉は。行ってみたい。」
「じゃ、決まり。」二人は一緒にシャワーを浴びて、洋服を着て、バンデンプラスに乗り込んだ。整備の行き届いた車は心地よい排気音をたてながら海に向かって走り、海岸線を鎌倉に向かった。途中、熱海の繁華街を通過するのに時間をかけてしまい、海の向こうに朝日が昇り始めた。
「あなたと初日の出を見れると思ってはなかった。なんか幸せ。」まるで初々しい恋をしてる様な顔の千恵がいた。
「随分時間かかったなー。ごめんね。疲れたでしょ?」缶コーヒーを飲みながら千恵を気遣う。「この人本当に優しい。」千恵はまた感情が込み上げて来た。
「ねぇ、帰りに箱根って寄れる?」
「大丈夫だけど何かあるの?」
「うん。ちょっと電話させて。」千恵は携帯を取り出す。
「もしもし、小夜子さん。」電話の相手はコンパニオンの先輩だった。
「小夜子さんじゃないわよ!何時よ!千恵ちゃん。。。あけましてあおめでとう。どうしたの?」
「あっ、あけましておめでとうございます。ごめんなさい、こんな時間に。小夜子姉さんしか頼めなくて、あのー、何処か箱根で泊まれる、いや、食事、、、いやお風呂、そう、温泉は入れるところないですか?お正月でどこも無理だとは思うんですけど、なんとか、、お願い!」千恵の一方的な話しに小夜子は事態を察した。もともと小夜子は箱根の旅館の娘で顔が広かった。
「元日早々に凄いお願いね。一応探してあげるけど、大丈夫?あんた猛獣飼ってるんだから、火遊びは怪我するわよ。」小夜子は心配した。
「うん、なんとかしますから、お願いします。ありがとうございます。」
「へぇー、あんた本気なんだ。珍しい。今度その彼氏に会わせてね。とびっきりラブラブな雰囲気の旅館探してあげるから。他に何かある?」
「落ち着いた処がいいんだけど、あと下着、、」
「下着って、あんたサイズは?」
「・・85のC・・」千恵はひそひそ声で話した。
「かしこまりました。85のDカップね。派手じゃない物。ね。」小夜子は全てを察した。千恵が微笑ましく思えた。「あの子珍しく声が弾んでたなー。本気の人と出会ったんだね。」これからの事態に小夜子も応援する気持ちが涌き上がった。