蝉の鳴き声-3
家の前を浮き輪を持った子供達がプールへ向かう、賑やかな声に混じって千恵の携帯が鳴る。麻実であった。麻実は小夜子の店で働く人気者の女の子で千恵を慕っていた。
「ママ、今日いってもいい?」
「どうしたの?」
「会って話す。」そう短い会話で電話は切れた。
午後2時が過ぎた頃、炎天下の中を麻実は、白いパンツにジバンシーのシャツを着てマルチカラーのバッグをぶら下げ千恵の家を訪れた。
「いらっしゃい。あがりなさい。暑いでしょ?」千恵は麻実を家に上げた。
「オッサンは?仕事?」
「またパチンコじゃない?」
麻実は綺麗に化けている。麻実がこの時間に化粧しているのは、男ができた時である。千恵はそれを知っていた。
「で、どんな男なの?今度は。」
「不動産屋」神妙な顔で麻実が答える。
「金持ちか。どうしてあんたはそうかなー。普通が出来ないかな?」あきれ果てる様に千恵は続けた。
「いや、すごくいい人なの、本当に。優しいの。お金目当てじゃないもの!小夜子ママもしってるし、どちらかっていうと・・・・」麻実は途中で話しをやめた。
「はいはい。それで、その人とどうなってる訳?」
「今度、食事誘われてるの、やられちゃったらどうしよう?きゃっ!」
「何いってるのよ。やられたらじゃなくて、やっちゃいなさい!食っちゃうのよー。」
「もう、さすがママ、相変わらずなんだから。ママは彼氏出来ないの?」
「なに言ってるの、私は既婚者よ。ちゃんと旦那がいるんです。」
「あのオッサンだけ?ママ確か年下好みじゃなかったっけ?なんか、ママのセックス見てみたい、すごーく、しつっこそう。」
「なんか失礼じゃないの?人のセックスしつっこそうとか、年下が好きなんじゃなくて、誠実な人が好きなのよ。」
「誠実ねー、なのにどうしてあんなオッサンと一緒にいるの?やっぱりアレ? 昔ここに来たとき見ちゃったっけ、大きいよねーオッサンのおちんちん。イボイボでびっくりしたなー、良くママあんなの入るなーって思ったんだから。」
「昔って?そんな事あったかしら?」
「ママとぼけてる。むかーし、玄関開いてたから勝手に入って来たら、ママ布団に潜っててオッサンが下半身丸出しでウロウロしてて、しばらくしたらママが服着て出て来たじゃない。何やってたのかしら?私もまだ若かったから、さすがにビックリしたなー。」
「忘れちゃった。そう言う事にしておいて。」
「ねえ、ママ?あのイボイボって真珠?アレ気持ちいいの?」
「あー、オッサンんがどっかで真珠だか、シリコンボールだか入れて来たのよね。だめだめ、痛いだけ、馬鹿みたい、結局自分も痛いみたいで随分我慢してたけど外しちゃったみたい。」
「へー、痛いんだ。」中身のない会話が続いた。
「小夜子ママの彼氏知ってる?今度みんなでゴルフに誘われてるんだけど、どうかな?」
「行ってくればいいじゃない。金持ちより誠実な彼氏紹介してくれるわよ、きっと。」千恵には興味のない話しだった。どうでも良かった。けど、話しが進み次の水曜日に彼氏を連れて、千恵の家に来る事になった。
千恵の家は六畳二部屋の古い賃貸家屋で、風呂はあるがトイレは未だぼっとん便所である。そこへ、不動産屋の彼氏を連れて来るのか?と頭に過ったが、やはりどうでも良い事であった。