投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

渚 一景
【その他 官能小説】

渚 一景の最初へ 渚 一景 5 渚 一景 7 渚 一景の最後へ

白い砂浜-1

 秋の浜辺は淋しさに満ちている。
少女が去った日から二度の台風が通過して様々なゴミが打ち上げられていた。流木、空き缶、ペットボトル……。そんな漂着物に混じって、たくさんの心の亡骸も埋もれている気がする。
 本当に夏の賑わいはあったのか?浜を埋め尽くした人の群れ。はしゃいだ夏。弾けた夏。跳ね上がる水しぶき。……

 少女の表情に戸惑った。素知らぬ眼差しにぼくは置き去りにされた。
 あの日、朝から駅前に車を停めて少女を待っていた。
(あの子はぼくのものだ……)
 ぼくのものになったのだ。……それなのに、名前も訊いていなかった。
(いつでも会える……)
なぜ名前を訊かなかったのだろう。連絡先も……。

 小さな地方の駅である。駅前も狭く、人も少ない。少女が数人の大人と連れだって現われた時、彼女は確かにぼくを認めたはずだ。だが、笑いかけたぼくの笑顔は行き場を失った。少女は背を向け、ぼくは見知らぬ旅人になった。

 車を降りて改札口のそばに立った。少女の瞳を追った。ぼくの動きを彼女は捉えていた。

「おばさん、お世話になりました」
「もっといりゃいいに。でも勉強もあるからあんまり引き留めてもなあ」
「とっても楽しかった」
「来年はどうなるかわからんけど、まだいるようだったらまたおいで」
「はい」
「一人で帰れるかね?」
「平気。もうすぐ中学生だもん」
少女はぼくに一瞥を投げた。それだけだった。
 

 その後、ぼくは何度か浜辺を訪れた。いるはずのない少女に『会う』ために。……
だが、幻影は思い出を蝕むような気もした。
 やはり夢であった方がいいのだろうか。……
 

 波が寄せて返す調べ ぼくの心に揺れる想い一人抱いて何処へ行こうか
 渚の風に何を語ろう やさしすぎた恋よ
 消えて何所までも 飛んで何処までも 青い海原

 風になびく君の髪が ぼくにささやく 潮の香り頬に残し何処へ行こうか
 渚の風に何を語ろう 幼すぎたあの日
 甘くいつまでも  遠くいつまでも  黒い瞳よ

 遠い夏の君の声が今も聞こえる 色を変えた海を見つめ何処へ行こうか
 渚の風に何を語ろう 儚すぎた夢よ
 辿るどこまでも  歩くどこまでも  白い砂浜


 白く砕け散る波の泡はすぐに消えていく。乾きかけた白濁した液に塗れた少女の股間はぼくを憶えているだろうか。
 来年の夏、ぼくはまたこの海辺を訪れるかもしれない。少女に会えなくても。……あの少女は渚の一景としてぼくの記憶にあるのだから。


 


渚 一景の最初へ 渚 一景 5 渚 一景 7 渚 一景の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前