繁殖-3
(やっぱキャラもミヤさんは怖いんだぁ〜)
キャラの慌て具合を見たカリーは、苦笑しつつ納得。
穏やかで上品なミヤは20歳そこそこに見えるが、50歳を過ぎているらしい。
所々で感じる有無を言わせ無い毅然とした態度に逆らえない時があるカリーは、仲間を見つけてひと安心した。
そのミヤはお茶を準備してキャラの前に置く。
「姫様が懐妊しないのは精神的がものが大きいですわよ?望んでいると口で言っていても、まだ心の準備が出来ていないのですわ」
精神面が身体に影響しやすいと自覚のあるキャラは、お茶に口をつけながら視線を反らす。
何だかんだと言って、まだまだ愛するダンナを独り占めしたいし、自由を謳歌したいのだ。
そんな事を考えていたキャラが、ふと鼻の上に皺を寄せる。
お茶の良い香りを邪魔して、青苦泥臭い臭いが鼻をついたからだ。
視線をカリーに戻すと、彼女はあからさまな渋面でミヤを見ている。
「さ。カリーさん、どうぞ」
そう言ってミヤがカリーに出したお茶から、異臭は漂っていた。
「……どうしても?」
目にまでしみる異臭に涙をうるうるさせて聞いてみても、ミヤは頷くだけだった。
(あれか)
体調が優れない時などに飲まされていた薬湯。
頭のてっぺんまで苦さが走るような衝撃的な不味さの薬湯は、味と反比例して栄養満点なのだ。
「いつも申し上げていますでしょう?妊婦には最適な栄養成分なのですから、我慢してお飲み下さい」
「うぅ」
カリーは観念して薬湯の入ったカップを両手で持ち、目をつぶって一気に中身を飲み干した。
瞬間、ビクッと身体が強ばり、震えが全身の隅々まで走るのが目に見えた。
「はい。良く出来ました」
満足そうに頷いたミヤは、カリーの口に甘い飴を放り投げる。
「んぅ〜」
必死に口の中で飴を転がし、渋味を軽減させようとするカリーの横に座ったミヤは、自分のカップにカリーと同じ薬湯を入れた。
「?ミヤ、体調悪いの?」
カリーを同情の眼差しで見ていたキャラは、ミヤの行動に不安そうな声をかける。
「体調はすこぶる快調ですわ」
ミヤはそう答えると平然と薬湯を飲み干し、自分の口に飴を含む。
「わたくしも妊娠致しましたの」
カシャーン
衝撃の告白にキャラの手からカップが落ちる。
そしてまた、甲高い声がファンの城内に響くのだった。
ー繁殖・完ー