憲の涙=花粉症?-4
それから、しばらく白雪を抱き締めて、話を聞いた。
「で、なんで約束の時間を三時間もオーバーして、何をやってたんだ?」
「これを探してたんだよ」
白雪はペチペチと、自転車のサドルを叩く。
って、待てよ。こ、これは。
「白雪、これ……」
「そう、憲が前に乗ってたヤツと同じのだ。驚いたか?」
確かに俺が乗っていたゲイリーフィッシャーのMTBだ。トラックのグチャグチャにされた前のと同じ……。
「朝からいろんな所を探したんだけどな、何処にも無くてさ。商店街でやっとこさ見つけたんだよ。何で有ったかは聞くなよ、アタシもわかんないからな」
…………ヤバイ、また泣きそうになってきた。いや、さっきは泣いてないから、またじゃないぞ、またじゃ!
何にせよ、嬉しい……。
「誕生日プレゼントだぞ、喜べ」
「あ、ありがとう白雪」
「ん」
満足そうに白雪は頷く。で、でも俺……。
「貰えない…」
「はぁ!?」
「俺は今年の誕生日プレゼントを白雪に渡してない。だから…」
「そんな事、関係ない。これはアタシが買った物だ、憲への誕生日プレゼントとしてな。だから、憲には貰う義務がある」
「義務?」
「そうだ。せっかく買ったのに貰ってもらえないなんて、アタシはまるでピエロじゃないか。あげる側は貰う側の事を。貰う側はあげる側の事を考えなきゃならないんだ」
………ふぅ、白雪の言葉って、何故か説得力がある。
「わかった。ありがたく頂戴いたしますです」
「うむ、よろしい。……じゃあ、次はアタシが聞く番だ。何で家にいなかったんだ?」
………こ、こいつは。
「本気で聞いてるのか?」
「何がだ?」
……全くわかってないな。
「なぁ、何でいなかったんだ?」
「お前が来ないからだ!!」
「へっ……?」
「待てども待てども来ないから携帯に電話すりゃ出ないし、捜しに出てみれば何処にもいないし、俺がどれだけ爆走したかわかってんのか!?」
「ご、ゴメン。携帯は、電源切ってて」
「何で!?」
「電車の中は切らなきゃならないだろ?で、そのまま……」
………はぁ。
「すげぇ心配した」
「ご、ゴメン」
「オマケに寿命が縮まった」
「ご、ゴメン!」
「そして疲れた」
「ゴメン!!」
「………良いよ。俺もゴメンな、怒鳴ったりして」
「いや、アタシが悪いんだ。憲の誕生日なのに、そんなに心配させて……憲、詫びはする。何でも言ってくれ」
「詫びって……良いよ。高価なプレゼントも貰ったし」
プレゼントであるこの自転車は数万はする。俺も手に入れるのにバイトを頑張ったもんだ。
多分、白雪は仕送りの食費を浮かして貯めたお金を使って買ってくれたんだろう。それだけで、俺は十分だ。
しかし、白雪は引き下がらない。
「いや、駄目だ。詫びないとアタシの気持ちが収まらない」
………仕方ない。白雪の言葉に乗るか。
と、言っても、何をお願いしたら良いものやら………………ニヤリ。
……これにしよう。
「じゃあ……」
白雪に近付き、耳打ちする。
その瞬間、白雪の顔の点火装置が作動した。
「な、なな、ななな何を……!?」
「何でも言って良いんだろ?」
意地悪い笑みを浮かべて、真っ赤になった白雪を見る。
「そ、それはそうだけど……」
「じゃあ良いじゃん」
そう言って、俺は携帯を取り出す。