誕生日のマルティ-1
マルティは3組の孫夫婦と5人の曾孫たちに囲まれていた。
「サンダはどうしたのかい?」
マルティはサンダの母親のビッティに聞いた。ビッティは言った。
「お婆さんにスペシャルなプレゼントをするって部屋に入ったみたいですけれど、あっ、今出て来たみたいですよ」
サンダが皆のいる居間に現れた。でも手には何も持っていない。
「お婆ちゃん、僕のプレゼントは16才のときのお婆ちゃんに渡したよ。ほら、思い出してタップレアの祭りのことを」
マルティは言われたように16才のときのタップレアの祭りを思いだそうとした。
あの晩、私は誰にも捕まらなかった。そして無事に夜明けまで逃げ通すことができた。
ユアロクはその後も私を捜し続けたけれど、私は逃げ通した。それもみんなサンダが来てくれたお陰だ。
そして革命が起こってガンダ共和国になり、身分制度は壊された。どんなに喜んだことか。
そして素敵な夫と出会って結婚し、子どもが3人生まれた。孫は12人生まれて、曾孫は38人もできた……待てよ、なんだって?!
そのときマルティの顔から血の気が失せた。私は確か娘を1人しか産んでないはずだ。それから3人の孫が生まれて、末の孫娘ビッティから生まれた一人息子がサンダだった筈。曾孫は全部合わせても6人だけの筈なのに……。
マルティの体は震えていた。自分の記憶が2つに分かれているのだ。そして新しい記憶は今目の前の現実と違っているのだ。目の前にいるサンダは新しい記憶では存在する筈がない。
「お婆ちゃん、どうしたの? 具合が悪いの? ね、思い出したでしょ。あの晩のこと。お婆ちゃんは誰にも捕まらなかったんだよね」
そう、捕まらなかった。捕まらなかったからサンダは生まれる筈がない。あの晩捕まった後、パクシーは妊娠して誰の子か分からない女の子を産んだのだ。
そしてその子が大きくなって結婚して3人の孫を産み末の孫娘のビッティがサンダを産んだのだ。
だからサンダは……サンダだけでなくここにいる孫夫婦も曾孫たちも存在する筈がないのだ。
「お婆ちゃん、どうしてそんな悲しそうな顔をするの。僕は……大好きなお婆ちゃんに喜んでもらおうと思って……」
「本当にどうしたんですかお婆さん」「大丈夫ですか」
サンダも孫夫婦も他の曾孫達の姿も段々薄くなって行く。ああ、行かないでほしい。
私はあのとき足がもう少し速ければよかったと望んだけれどそれは間違いだった。愛する孫や曾孫たちまでも失うことを望んでは居なかった。
そしてみんなの姿が完全に消えた。新しい過去の現実ができたために存在する筈もない人々が当然のように消えていったのだ!
「ああ、愛するサンダ! 私はなんと愚かなことを望んでしまったのか。まさかお前がそれを実現するとは思わなかったから」
するとサンダの声がどこからか聞こえた。
「お婆ちゃん、僕もこうなるとは知らなかった。せめて僕のことを忘れないでいてね。さようなら、大好きなお婆ちゃん」
「サンダ!」
マルティは目が覚めた。
「お婆さん居眠りしてたんですね。ほらみんなが来てくれたじゃないですか」
良く知ってる孫娘が声をかけてくれた。あの居間よりも3倍も大きな居間の肘掛椅子にマルティは座っていた。居間には50人くらいの人数がひしめいていた。けれどもサンダの姿はなかった。
「サンダ……」
そう呟くと、1人の男の子が返事をした。
「なに、曾祖母ちゃん? 僕のこと呼んだ?」
その子はサンダとは似ても似つかない顔をして言った。
完