ブッディマータ博士-2
すると部屋の隅に置いてあった、電話ボックスのような箱の入り口のドアが開いた。
「中にお入りなさい。筋肉を強化する装置だけれど、元々は治療用に開発したものなの。私たちのような病人には効果がなかった失敗作。
でも運動神経の発達した人なら抜群の効果があるわよ。継続して使用すれば超人並の体になるけど半日しか時間がないのよね。それでも十分に逃げ切れる筈よ」
パスキーはそのボックスの中に入った。するとドアが閉まり、透明な覗き窓から蒼白い光が点滅し始めた。
「筋繊維や骨組織に浸透する特殊な光よ。見かけは変らないけれど数時間の間は火事場の馬鹿力が全身から出て、自分でも驚くほど動けるようになる。でも一時的なものだから、翌日には普通に戻っていることを忘れないでね」
「はい」
ボックスの中のパクシーが返事をしたのでサンダは驚いた。
「こちらの会話も聞こえるし、中の声もマイクを通してこっちに聞こえるのよ。そんなに驚くことでもないでしょ。
ところで、あの子のことをマルティお婆ちゃんって呼んでいたわね。あなたは孫なの?」
「いえ、曾孫です」
「そう、きっと革命後に良い人と結婚したんだね」
「だと思います。あのう、ありがとうございます。これでマルティお婆ちゃんに素敵な誕生日プレゼントができます」
「あら、あなたって本当に良い曾孫さんね。私にもあなたのような曾孫がいてくれたらと思うわよ。
あなたのプレゼントは形のあるものではなくて、お婆さんの嫌な思い出のトラウマを消してあげることね。素敵だわ」
サンダはにっこり笑って、パクシーの方を見た。
「うん、だって僕はお婆さんに幸せになってもらいたいから」
パクシーは2人の話を聞いて全てを理解したようだった。サンダが自分の曾孫で、自分を助ける為に時の旅をしてきたことも。
やがてボックスの中のパクシーの様子が変った。姿が歪んで体が吸い込まれそうになる。サンダはブッディマータ博士に別れを告げるとパクシーと一緒に跳ぶ準備をした。