パクシーの正体-1
町のあちこちから若者たちの奇声と少女の悲鳴が聞こえて来た。急がなくては、とサンダは思った。
そのとき微かに遠くから『パクシーがいたぞ』という声を聞いた。その瞬間サンダの体は虹色の空間を通ってその声のする方角へ飛んでいた。
「パクシー、とうとう捕まえることができるぞ。覚悟は良いな」
先ほどのユアロクという若者が先頭になって、一人の少女に迫って行くところだった。
袋小路に追い詰められた少女の背後にサンダはいた。突然の彼の出現に若者たちは一瞬驚いた顔をした。その様子に振り返った少女は、サンダにそっくりな顔をした美しい娘だった。
「あなたはだ……「逃げよう」」
サンダは少女の手を掴むと虹色の空間にジャンプした。だが、1人だけなら簡単に入れた空間も2人ならなかなか入りづらい。パクシーの体は半分くらい元の世界に残っている。
「おい、捕まえろ! 消えようとしている」
そのとき時間がゆっくり流れる感じがした。そして例の声だけが普通に聞こえて来た。
『2人ともこの空間に留まることはできません。行き先を決めるのです。けれどもこの少女が生きている時代には行けません。
同じ人間が2人存在することはできないからです。けれども遠い過去や未来に飛ぶことはできますが、滞在時間は半日が限度です。それを越えると元の場所に引き戻されます。
時代の中で生きる者たちは、逆らって違う時代に飛んでも大きな時の海の流れに引き戻されてしまうのです。
時の旅人だけが自由に旅することが許されているのです。最後にもう一つ、こういう行為はただの一回だけしかできません。2回行おうとすると死んでしまいます。2つ以上の異世界に普通の者が行けば体の組織が壊れてしまいます」
サンダは動きが止まっているように見えるパクシーの髪の毛を手で払って左耳を見た。左の耳たぶに大きなホクロが見えた。そして右の耳たぶの裏にも小さなホクロが……。
「間違いない。この人はマルティお婆ちゃんの若い頃だ。それなら……」
時の流れは普通に戻った。ユアロクがパクシーの衣服を掴んだ。瞬間、光が輝き目の前に白い壁の世界が広がった。