この気持ちを言葉に代えるなら-3
「気付いてなかったなんて、言わせない」
瞳に力を込めた。
次こそは逸らさせない。
ユキは3年間此処に通ってくれた。
その事実に私は少しだけ自惚れてもいいだろう?
「由喜・・・私のこと好きなら、抱いて」
私はありったけの愛情を込めて由喜に言う。
すると由喜が重い口を開いた。
「18まで、待つ」
「・・・え?」
「お前が高校卒業するまで待つ」
「それってどういう・・・」
「俺はおじさんとおばさんの墓前で誓ったんだ。お前が高校を卒業するまで俺が面倒見るってな」
私は言葉を失った。そんなことがあったなんて・・・
そして由喜は言葉を続ける。
「ここで今お前を抱いたら、おじさんとおばさんに誓った約束を反古にしてしまう」
「うん」
由喜の言葉が心と体に染みてきて、私は素直に頷いた。
一呼吸おいて由喜はまた言葉を続ける。
「・・・待てるか?」
私は由喜を抱く手に力を込めてその逞しい胸に顔をうずめる。
そして呟く。
「もちろんだ」
また「そうか」とだけ由喜は言って。
そして今度こそ私を抱きしめた。
その声音が心なしか喜びを帯びていたような気がしたのは私の気のせいだったのかもしれない。
そしてクツクツと笑いながら由喜は言う。
「美桜はモテるからおじさん心配だよ」
嘘。
私は昔から由喜しか見てなかった。
知っている癖に。
仕方がない奴。
きっと確かな言葉が欲しいのだ。
「私は由喜しか見ていない」
「ああ」
「幼い頃からずっとだ。そしてそれはこれからも変わらない」
「そうか」
「それは由喜が一番よく知っているだろう?」
上目で由喜を見る。
由喜は「そうだな」と微笑んだ。
そして私も同じ質問をぶつけてみる。
私も仕方がない奴だ。由喜の確かな言葉が欲しい。
「由喜は?由喜だってもう結婚してもいい歳だろう?」
「ばーか、今更目移りなんかするかよ」
由喜が私の頬に軽く口付けをする。
そう、私たちは互いの気持ちに気付いていた。
タイミングが無かっただけだ。
そして少しの勇気が無かっただけだ。
怖かった。
この気持ちを言葉にしてしまえば、いつか由喜までも居なくなってしまうと。
まただ。
また火が私を攫(さら)っていく。
あの火が再び私を呑み込んでしまうのではないかと。
でも今なら言える。
この気持ちを言葉に代えるなら――・・・
「由喜、好きだ」
《了》