この気持ちを言葉に代えるなら-2
残業じゃない日以外は私のアパートに通ってくれている。
もう結婚してもいい歳だというのに。
「ご馳走様。相変わらずユキは料理が上手いな」
「お褒めにあずかり光栄だよ」
ククッと笑いながらユキは食べ終わった皿を流しへ持っていく。
皿洗いは私の仕事。
ユキが帰ったあとに二人分の皿を洗うのが常だ。
コト
二人分の茶を淹れてテーブルに置く。
夕飯の後は二人で茶を啜るのもこれまた常だ。
私はこの時間が好きだった。
いつからだったか。
この一時に計り知れないほどの安心感を覚えたのは。
いつからだったか。
ユキに淡く儚い恋心を抱いていたのは。
いつまでなのだろう。
この関係が続くのは。
いつまでなのだろう。
ユキが私の傍に居てくれるのは。
「美桜?」
愛しい人の声でハッと現実に引き戻される。
いつの間にかユキは私の隣に座っていた。
「あ、ああ悪い・・・」
「何か考えてたのか?」
「いや・・・」
「・・・思い・・・出したのか?」
「そうじゃない、そうじゃないんだ・・・」
頭をユキの肩に預けた私にユキは「そうか」とだけ言った。
ユキが言っていることは火の記憶。
火に全て呑み込まれた。
火に全てが狂わされた。
両親の命も私の人生も・・・
両親が私の傍から居なくなってしまったようにユキもいつか――・・・
「ユキ・・・」
私はユキの腰に手を回して抱きつく。
怖かった。
ただひたすら怖かった。
「美桜・・・?ほんとにどうしたんだ?」
「・・・なんでもない・・・駄目か?」
上目を使ってユキを見つめる。
この人を、此処に繋ぎ止めたかった。
今までそう思ったことは幾度とあれども、行動に移すことなんてなかった。
それが何故今日なのか。
何故想いが堰(せき)を切ったかのように溢れ出したのか。
ああ、そうだ。
今日は・・・今日はユキが初めて私の部屋に来た日。
3年前の今日から、こんな生活が始まったんだ。
暫く考えこんでいたユキが漸く口を開く。
「いや、駄目じゃないが・・・」
「・・・女でも居るのか?」
「・・・美桜?」
一体どうしたのかと言いたげなユキの瞳。
両の手は私を抱き返すことはなく、その片手は私の頭を撫でた。
「どうもしてなんかいない。ユキは気が付いていたはずだ」
ユキは黙って瞳を逸らす。