1.過去は消えない-7
「……あー、んー……、でもこの子はそういうのナイから。ほら、歌わないの?時間どんどん過ぎちゃうよ」
と、梨乃は対価をもらって手淫したことをバラされて、都合の悪さから話題を変えようとするが、
「無いって、そんなの有り得ないでしょ? あの店に出入りしといてさぁ。俺もう、ヌク気マンマンなんだけど?」
男はスナック菓子を手に取り、Tシャツに食べカスを落として食べた。「ヌキなしっつーなら、今までの金、回収させてもらうよ? お前らみたいなガキと一緒にいるだけで満足なんて、他のレベル低い客と同じにしてもらったら困るぜ」
「あ? レベルとか、わけ分かんないし。てか、そういうこと言うの自体がキモいし」
「てか、俺はマキちゃんと話してんの」男はその劣情の滲み始めた気色悪い面を悠花に向け、「手コキ、マキちゃんなら5万いっちゃうよ? どお?」
悠花にはそもそも金得の願望はない。醜悪な生き物にしか見えなかった。
「フェラなら10万」
「……、……ほんっと、キモい。……ありえないから、やめてくれる?」
激しい憤り、そしてこんな男に売女のように値付けされることに屈辱すら感じて、震える声で言い捨てた。
「んだよ、下手に出てりゃ、調子に乗りやがってよぉ。お前らみたいなガキなんざ、JKじゃなくなったら価値は半減以下なんだからよぉ、今の間にヌキでもウリでもしやがれっつーの」
スナック菓子を、まるで牛や馬かのような口の動きで噛み砕き、塩で汚れた指をTシャツの腹で拭いながらソファにのけぞる。
「じゃ、ヌケないなら、とっとと別の子誘いにいきたいんだけど?」
「別にいいけどさ?じゃ、5本くれよ」
梨乃は男に手を差し出して見せる。
「お前らみたいなクソビッチ相手にカラオケだけで5万とか本気にしてるわけ? ヌカせてもらえねぇんなら、5万も出す価値、全く無いの自分でわかんねーんだ?」
「ちょ、約束とちがうじゃん」
「やっぱ金欲しいんだろ?お前ら。じゃ、しょーがねぇからリカでもいいや。リカがさ、ヌイてくれてるところ、ずっとマキちゃんが見てるっつーのはどう? それならいいんじゃね?」
「うわ……、本気で言ってんの?」
(──!)
悠花が息を飲む一方で、梨乃は男を侮蔑しながらも心の中で金勘定を始めていた。
「センズリ鑑賞ならぬ、ヌキ鑑賞ってやつだよ」下卑た笑いを浮かべながら、「マキちゃんみたいな子に見られながらヌクのなんてさ、ゾクゾクすんじゃん」
「……それやったら、いくらくれるの?」
「ちょ……! リ……、っと、リカちゃん!」
悠花が梨乃を制止しようとするが、梨乃は片目を閉じて、手を拝むように体の前に差し出して、お願い、と声に出さずに唇だけ動かしてみせた。
「5万からまだ取るつもりかよ」
「あったりまえじゃん、ウチらみたいな子が、そんなキモ趣味つきあってやんだからさ」
「じゃ、手コキならプラス1万、しゃぶってくれたら3万積んでやるよ」
「ちょ、この子にFとか要求したときと違くない?」
「ったりまえだろ? マキちゃんとお前じゃスペック違うし。もちろん、マキちゃんがちゃんと見てくれないと、って条件付きのお値段だぜ? どうするよ?」
梨乃は悠花のほうを振り返って、
「……ごめんね、見てるだけ、だから。するのは私がするから、いいよね?」
「こんなのホント、気持ち悪いんだけど……」
「ごめんっ……お願いっ」