第五話「ともだちはこころづよい」-1
昼休み。
ほのかは亜佐美と一緒に昼食をとるのが日課となっている。
今日もほのかと亜佐美は互いの弁当を取り合っこしながら、昼食を楽しんでいた。
「ふふふ」
亜佐美がいきなり含み笑いをもらす。
心なしか、目がきらーんと光っている。
「ど、どうしたの?」
ただならない気配に物怖じするほのか。
「何かさぁ、ほのほのさぁ。ちょっと青春してる感じじゃない?」
「え? え? え?」
ほのかの脳裏にすぐ浮かんだのは裕輔の笑顔。
しかし、それはまだ亜佐美には言ってない想い。
「んっふっふっふ。私の洞察力は凄いのよ?
もう恋愛に関することなら、レーダーがぴこんぴこんするんだから」
「な、なんのことかなぁ? わ、私のは分からないなぁ。えへへ」
どもりながら、噛み噛みしながら、声が上擦る。
そして、最後には笑顔で誤魔化そうと頑張る。
誰がどう見ても、嘘を付いているようにしか見えなかった。
「もう、嘘付かないの。嘘をつくのが下手なんだから、こっちが気の毒になるわ。
どうせ、百回に百回はばれるんだからサ」
それは言い過ぎではないかなぁ。
と思ったが、その通りかな? と思い直して、ほのかは口にはしなかった。
今までに嘘が通じたことがあったかどうか、自信がない。
「まあねぇ、前原くんは確かに可愛いし、けっこーカッコイイ。かわカッコイイタイプだけどね」
にやけ顔の亜佐美から出てきた言葉に、頭が動転する。
「え? な、なな何をいってるの?」
何か、前原くんって断定されてるし……。
パニックで混乱する頭。それでも、何とかしようと高速回転させる。――それなりに。
「えと、えと。……そういえば、今日の亜佐美ちゃんのたまご焼きおいしそうだね」
「それはほのかなりに誤魔化そうとしてる?」
ほのかなりって……。
失礼な物言いな気もしたが、その通りなのでこれまた口にはできない。
なんだか悔しい気もする。
「な、なんでぇ、なんで、どうして? どうして、相手まで分るのぉ?」
「ほのほののことは何でもお見通しなのサ。ふふっ。
――なぁんてね、本当はそんな気がしていただけで確信はなかったのよ?」
亜佐美は悪戯っ子っぽい笑みを浮かべて、ちろりと舌を出す。
「ごめんネ、カマかけで」
「か、かまかけだったのぉ?」
「うん、ほのほのったら、もうその通りですって言わんばかりの……というか、
もう言っちゃってるような反応してくれるから。
ほんと、かわゆいネ。くすくす。うふふ」
「ぅぅ……」
文句を言う気にもなれず、ほのかはわずかにうなり声をあげた。
それにこのカマかけがなくてもいずれは知られることにはなっただろう。
亜佐美はほのかよりも、一枚も二枚も三枚も四枚も……とにかくとことんうわ手だ。
ほのかが隠し通せる道理はない。
「そっかぁ、前原くんかぁ。いいネ、いいネ。青春してるね。ほのほの」
「……………………」
……顔が熱い。
「安心して。ここは私がバァーンとぉ! キューピッド役を引き受けちゃうんだから」
「ぅ、うん」
小さくうなずくほのか。
ここに至れば、恥ずかしいという想いよりも、嬉しい気持ちが大きかった。
ほのかにとって亜佐美は一番仲良く、頼りにもなって優しい心許せる親友だったから。
彼女が協力してくれるのは、凄く嬉しかった。
とても心強い。
とても安心する。
友達っていいねって思う。
「頑張ろう、ネ?」
「――うん、がんばる」
心の雲間に射す一条の光りは、勇気を照らす。
小さな胸の奥にある大きな想いの種が今、芽吹きはじめた。