投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

宮咲ほのかのものがたり
【学園物 官能小説】

宮咲ほのかのものがたりの最初へ 宮咲ほのかのものがたり 3 宮咲ほのかのものがたり 5 宮咲ほのかのものがたりの最後へ

第四話「おとめのなやみはどうどうめぐり」-1

 季節は梅雨。


 空は灰色に染まり、湿った風が吹く。
 朝だというのにどんよりとした暗さが漂っていた。
 しかし、梅雨空とは違い、ほのかの胸は爽やかだった。


 今までの学生生活の中でも、ほのかは今青春らしい青春を感じていたからだ。
 前原と恋仲になった訳ではまだない。
 
 友達


 ――という訳でもないが
 ……授業中に話す程度の仲にはなった、と思っている。
 それが楽しくて楽しくて仕方がなく、曇り空の今日も登校の足は軽い。
 
 隣の席に座れる喜び。
 この恋がもたらす昂揚感。
 今までにないような、喜び。


 好きだって告白したら、うまくいっちゃったりして……。


 ほのかとて自信はなかったが、淡い期待を思い浮かべる程度には乙女だった。
 胸の中で甘い夢を描く。
 ほのかにできるのは今のところはそれくらいものだ。
 
 暗くて、背も低く、平らな幼児系体。
 女としての魅力はほとんどない。
 あるのは子供か小動物みたいな愛らしさくらいだろう。
 
 でも、恋する想いを止めることはできない。
 でも、告白する勇気は持てない。


 失敗して、話すらできなくなったり。
 友達に気を使われたりするのが嫌なのだ。


 ざー、ざー、ざー。
 単調な雨音が木霊する。
 降り始めたのは、昼前の三時間目の授業の時だった。


 今日で五日連続の雨。 
 梅雨に、中間考査に、今は生徒達にとってはあまり嬉しくない時期である。


 しかし、ほのかは雨がそんなに嫌いではなかったし、テストも嫌い。
 むしろ、雨の匂いは好きだった。
 単調なリズムの雨音も好き。
 外に出なければ、晴れより雨が好きだ。


 テストも平凡な成績を収めて、何となく過ぎていく。
 その程度の期間でしかない。


 ほのかが今気にすることは、ただ一人の男の子のことだけだ。


 ほのかは頬杖を付くような素振りをして、ちらりと隣の裕輔を見やった。
 頬がほんのり朱に染まる。


 前原、裕輔くん。


 心の中でその名前をつぶやくだけで、心はときめく


 ほのかが知っているのは彼の名前。
 勉強とスポーツがそれなりにできるということ。
 休憩時間は女の子と話すことはなくて、男の子たちとばかり話していること。


 それに、笑顔が可愛いことかな? ――なぁんてね。


 心の中で付け足して、頬の朱をさらに深める。
 彼の笑顔を思い浮かべるだけで、ほのかの頬は緩みっぱなしだ。


 ……えと。


 考える。
 あんまり動かない脳みそで考える。
 何か話しかける話題があるかどうかを考える。


 それが日課となりつつある。


 でも、口下手なほのかが好きな男の子に話を掛けるのはものすごい大変なことだ。
 緊張せずに男性に話せられるのは父親くらいもの。


 なに、話そう。昨日のテレビ?
 流行の音楽?
 友達の話? ……友達あんまりいないけど。


 頑張れば思いつく話題はそれなりにある。
 でも、それは胸にとどまり、口から出て行くことはなかった。


 彼と話す時は、いつも彼から話しかけてくる時だけ。
 しかも、ほとんどは授業の話。それも、大抵はほのかが聞き役だった。


 つまらない人に思われてないか?
 暗い人と思われてないか?
 嫌われないか?


 ――心配は尽きない。


 何か話しかけなきゃ。


 同じ思考の堂々巡り。
 ほどなくして、三時間目の終わりの鈴が無情にも鳴り響いた。



宮咲ほのかのものがたりの最初へ 宮咲ほのかのものがたり 3 宮咲ほのかのものがたり 5 宮咲ほのかのものがたりの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前