忘れない雨音の時間(とき)-1
酷く緊張しながら千香の家へ行ったのは、千香の家が初めてだからじゃなくて、きっとこれから起こる…いや、起こすだろう秘め事への期待と、小さな怖さから来るものだって、体が理解していたからだ。
未経験の世界は怖い。
きっと千香も僕と同じだろう、いつもとは比べ物にならないくらい早口で。
恥ずかしさやそこからくる気まずさを紛らわそう会話を切らすまいと、僕らはくだらない話をし続けた。
だけど、お互いに話す内容は耳にはなんとなくしか入らず頭を素通りしてる状態で。
僕が頭で考える事は、なにをどうすべきか…とか、もっと性の知識を得ておくべきだった…とか、そんな残念な事ばかりだった。
僕が知る性的な事なんて、時々内緒で部屋のパソコンから見る女の人の裸体くらいで。
千香に似てる人の裸体を見つけては、溜まって膨れた千香に対する性欲を自己処理する事しかしたことがないという…。ちょっと情けない僕に苦笑い。
(千香も…自分でしたことがあるのかな…?)
そんな事を考えながら千香の胸元についつい視線が行ってしまった。そんな僕を見て、
「…やらしい。シュウイチ、今、やらしい顔してた」
千香は赤い顔で僕の脇腹を小突いて怒ったふりをした。
「…てか僕らはその、今からそのやらしい事をしようとしてるわけだけどね…」
苦笑う僕に、
「もうバカっ! はっきり言わないでよっ! さっきからずーっと恥ずかしいの我慢してるんだからっ!」
千香は更に顔を赤くして、傘から走り出そう勢いで歩く足を速めた。
「ちょっ! おまっ! 制服濡れるだろ!」
千香を引き寄せて、雨に濡れないように傘の中に収める。
狭い傘の中。僕の左肩はびしょ濡れだけど、やっぱりいとおしい狭さだ。