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もう君に会えない
【大人 恋愛小説】

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それぞれの道2-26

そんなあたしの言葉は宙に浮いたまま消えていった。


目の前では大人げなくじゃれ合う久留米さんと塁の姿。


その笑顔が、たまらなく大好き。


それを守るためなら、あたしはなんだってできる、そんな気がした。


あたしと塁が、芽衣子さんや茂さんの代わりになれるとは畏れ多くて到底思わないけど、あたし達はあたし達の形で久留米さんの側にいるから。


だから、あたしはこの一瞬一瞬を大切にしていこう。


小さな奇跡が繋がって今のあたし達がここにいること、それを噛み締めながら。


「さ、気を取り直して引っ越し終わらせるよ!」


あたしは腕捲りしてからスクッと立ち上がった。


すると、二人があたしを見上げてニッと笑う。


「よし、サッサと終わらせて、このバカハムスターを玲香ん家に置いてくるか」


久留米さんは横目でチラリとシゲを見ながらそう言った。


ケージの中のシゲは、その言葉に反応してかしらずか、いつの間にか回し車をカラカラ回し始めている。


「お、シゲの奴、早く玲香ん家に連れてけって言ってるみてえだな」


「猫が待ってるとも知らずにバカだねえ」


久留米さんはバカにしたような笑みをシゲに向けるけど、当のシゲはどこ吹く風。


でも、この小さなハムスターが可愛い奇跡を見せてくれることになるとは、この時のあたし達は誰も知らない。





――ただ、シゲの回す回し車の音だけが、まるで誰かに会いたいと急かすように、カラカラ鳴り響いているだけだった。





〜end〜






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