それぞれの道2-23
「おーい、あんまシゲをいじめんなよ。
シゲちゃーん、このおじちゃん怖いからお家に入りましょうねえ」
塁はあてつけるようにそう言って、再びシゲをケージの中に戻す。
するとシゲはいち早く巣箱の中へ身を隠し、そこから窺うように久留米さんを見つめていた。
「てめえは少しメイにビビらされて怖い思いしろ」
そんなシゲを見つめながら、久留米さんは悪態を吐いてケージの中に手を入れて巣箱を軽く揺らしていた。
「お前何やってんの! ハムスター相手にマジでムキになってんじゃねえよ」
「冗談だって」
塁が慌てて久留米さんの腕を掴んでたしなめているけど、彼はケラケラ笑うだけ。
その屈託のない笑顔に、こちらまで顔が綻んでくる。
普段は大人な久留米さんも、なんでか塁がいるとちょっぴりガキッぽくなってしまうんだ。
「まったく、シゲと遊んでたら終わるもんも終わらねえぞ?
仕方ねえ、オレも手伝うから引っ越しサッサと終わらそうぜ」
スクッと立ち上がった塁は、腰に手をあてながら部屋の隅に置いていた、残り少ない段ボールの小山をチラリと見た。
「あれ、手伝ってくれるの?」
あたしがそう訊ねると、彼はニッと笑って、
「6時に店予約してるから、それまでに引っ越し終わらせなきゃいけねえんだよ。
主役がいないと送別会になんないだろ?」
と言い、性懲りもなくシゲにちょっかいを出している久留米さんを横目で見ていた。