それぞれの道2-21
塁の言葉に、押し問答をしていたあたし達の動きがピタリと止まる。
息があったみたいに、ゆっくりとハムスターに視線を移すあたし達。
そして久留米さんは、人差し指で丁寧にハムスターの頭を撫でている塁に向かって、震える唇を開いた。
「……シゲって……」
「ああ、コイツシゲって名前ね。長嶋茂雄終身名誉監督からとったんだ。
アイツ、ジャイアンツバカだから。こんなに可愛いのに、あんなおじいちゃんと同じ名前にさせられて可哀想だよな」
ククッと笑う塁に対して、あたし達が呆然としているのは、恐らくあたしも、そして久留米さんも長嶋茂雄なんかじゃなくて別の人が頭に浮かんだからに違いない。
チャラそうで、実際かなりチャラくて、散々恋人を泣かせてきたヒモ男。
でも、久留米さんとバカばかりやってきたという、彼にとっての大事な親友。
スキー場のゲレンデで底抜けに明るい笑顔を見せて写真に写る、茂さんの姿をあたしは脳裏に思い返していた。
猫のメイのいるところに、ハムスターのシゲがやってくる。
たまたまだと言ってしまえばそれまでだけど、やっぱり運命的なものを感じずにはいられない。
久留米さんを見れば、相変わらずポカンと口を開けたまま、シゲを凝視しているだけだった。