それぞれの道2-20
「ほら、こんなに大人しいぜ? オレ、コイツが人間に噛みつくの見たことなかったんだけど……」
「でも、確かに噛みつかれたんだよ! ほら、血ぃ出てんだろ!」
そう言ってあたし達の前に噛まれた右手を向けた。
なるほど、人差し指からジワリと血が滲んでいる。
「おい、どうして久留米くんに噛みついたりなんかしたんだよ? 生理的に受け付けなかったか?」
茶化すようにハムスターに話しかける塁の顔は、この状況を面白がっているようにも見えて、わざと久留米さんを怒らせるような真似をしていた。
案の定、塁にのせられてすっかり怒り心頭になってしまった久留米さんは、今度はあたしの方を見て、
「玲香、やっぱり預かるのやめろ! こんな性格悪いハムスターの世話なんてするこたねえぞ!」
と、ムキになっていた。
「ダメだよ、引き受けるって約束しちゃったんだから」
「絶対お前も噛みつかれるって!」
「平気だって」
そんな押し問答をしばらく二人で続けていると、塁が呆れたような声でわざとあたし達に聞こえるように、
「このおじちゃんは、ハムスター相手にムキになって大人気ないでちゅねえ。
間違えて噛んだだけなのにこんなに責められて、可哀想なシゲちゃん」
と、ハムスターに話しかけていた。