あたしは、あたし。-2
疲れ果てて、意識を失うように眠りに落ちて目覚めた場所は、審判の間ではなく、寝具と、クローゼット、姿見がひとつあるのみの、極めてシンプルな小さな部屋だった。
まだ快楽の余韻が覚め止まぬ体。少し気だるいけど、あたしがこれからやらなければいけない事を思い出して、体を起こしてクローゼットへと歩き、扉を開けよう手を伸ばすと、
「急いで服を着ろ。下界に降りるぞ」
「いつの間に…」
ドアに凭れて、腕組みをしながらあたしの身支度を待ってる刀鬼に視線だけ向けて苦笑いした。
黒いレザーパンツに黒いロングブーツ。素肌の上に黒いロングコート。
これが、これからのあたしの正装。仕事着。
姿見の前に立ち、自分の姿を確認する。
長い黒髪はあたしが三神環という人間だった名残。
そして、ルビーみたいな紅い瞳は、あたしが…、
「刀鬼〜! 珠鬼ちゃ〜ん! 早くしないと門が開くよ〜!」
急かしてるようにはとても思えない暢気な結月の声。
「行くぞ、珠鬼」
刀鬼は、あたしが死神『珠鬼』になった証の名を呼び、冷たいけど優しい紅い瞳で小さく笑んだ。