第二話「神崎亜佐美という女の子」-1
「ほらほら、猫背気味だよ? ほのほの、可愛いんだから、もっと顔上げなきゃ勿体ないよ」
いつもの様にうつむき加減で歩いているほのかに、亜佐美は優しく微笑んだ。
『可愛い』という慣れてない言葉に、ほのかの頬が桃色に染まる。
「……そ、そんなことないよ」
ぱたぱたと手を振るほのか。
「ぁ、亜佐美ちゃんの方がとっても可愛いし、綺麗だし……」
これは本心。
胸が大きくて、背が高くて。
綺麗で大人びた亜佐美は、ほのかにとっては憧れる存在である。
それに比べて自分は、背は低くて、中学生みたいな体型をしている。
……私はおっぱいだって小さい。
亜佐美ちゃんはもうしっかりと大きく、走るとわずかに揺れてる。
いいなぁ。
「ありがと」
亜佐美は笑う。
ほのかとは違い、彼女はよく笑う。
明るい笑顔。
「でもネ、ほのほのは本当に可愛いよ。かわいいというか、かわゆいね」
「ぅ、うん。ありがとう」
分るような分らないような褒め言葉だったが、ほのかは反射的にお礼を口にする。
恥ずかしい気持ちが大きいけど、ちょっぴり嬉しい気持ちもある。
「おはよ〜、あさみん。宮咲さん」
「ぐっもーにん。お二人さん」
クラスメイトの女の子たちが挨拶を投げかける。
「おっはよ〜」
いつもと変わらない明るい声で挨拶する亜佐美。
「……ぉはよ」
いつもと変わらないものおじした声で挨拶するほのか。
二人は本当に対照的なコンビだったが、不思議と気が合っていた。
周りから見てもとてもお似合いの二人である。
クラスメイトたちがすれ違うたびに挨拶をかけてくる。
友人の数は亜佐美の方があきらかに上だったが、この朝のだんらんがほのかは好きだった。
私ももっと友達作らないとなあ。
小学校のころから、内気なほのかは友達が少ない。
いや、ほぼ0といってもいいかもしれない。
内気な性格がわざわいして、どうしてもクラスメイトと壁を感じてしまうのだ。
しかし、それを壊す、明るさ、人間性が亜佐美にはある。
憧れで、大切なお友達。
……ちょっぴりえっちなところはあるんだけど……。
想像して、かぁっとほのかの顔が赤く染まる。
「いきなりどした?」
怪訝そうに首をかしげる亜佐美。
さっきよりもあわてて、ほのかはぱたぱたぱたぱた手を振る。
「な、なんでもないよ。ほんとに、なんでもないよ、ほんとだよ」
「怪しすぎるわっ!」
「きゃっ」
亜佐美のチョップに声をあげるほのか。
それを見て、にやにやする亜佐美。
「かわゆいね〜」
「も、もう」
そう、彼女はSっ気もあるのだ。