第一話「ほのぼのした女子校生、宮咲ほのか」-1
春の終わり。
宮咲ほのかがほのぼの学園に入学してから、早一ヶ月が過ぎようとしていた。
ふわりとした柔らかい髪。
控えめに下げられた眉尻に大きな瞳。
身につけているのは勿論、赤いリボンのついた女子制服。
ほのぼの学園の制服である。
白のブラウスに、藍色のスカート、シンプルな女子制服だ。
ひかめなこの制服が、自分にぴったりだとほのかは思っていた。
ほのかは歩道の端をとぼとぼと歩いている。
歩いているだけなのに、やけに頼りない足取り。
なぜかはほのかにも分からないが、少しおぼつかないのだ足取りが。
ほのかは慣れた景色をいつものように見渡していた。
白い校舎。
藍色の制服を着た生徒達。
散った桜木の下には白い花弁が桃色にひろがっている。
そろそろ梅雨入りだ。
けど、今はうす水色の空が一面に広がっていた。
太陽はきらきらしてて、香る緑が心地よい。
「ほのほの〜。おっはよー」
背後から声を掛けられて、ほのかは後ろを振り向いた。
挨拶と共に駆けて来たのは、同じクラスの神埼亜佐美だった。
凛とした顔つきに、ほのかとは違う女性らしい体つき。
愛らしいポニーテールがふわりと翻る。
「お、おはよぅ。神埼さん」
あんまり慣れてない挨拶に、思わず声が小さくなる。
また会ってから一ヶ月弱。
内向的なほのかは、まだ気軽に挨拶できるほど慣れてはいなかった。
「亜佐美で良いってば。神崎さんだなんて、背筋がムズムズしちゃう」
朗らかに笑う亜佐美。
控えめに笑うほのか。
「う、うん。……ぁ、あさみちゃん」
亜佐美と呼び捨てすることはできない。
亜佐美さんとも何となく言い辛く、悩んだ末でちゃん付けで呼んでみることにした。
ほのかは照れるのを隠すように、少しうつむく。
「えへへ、可愛い反応するね。ほのほのは」
「…………えと」
ほのかは頬が熱くなるのを感じ、さらにうつむく。
ほのほのってなんだか恥ずかしい。
「あはは、一緒に教室まで行こ」
「……うん」
ほのかはうつむく顔を上げて、照れ笑いしながらうなずいた。