とある日常【悠久の王・キュリオ】編 アオイの初めてU-1
肩を並べてアオイの部屋に入ると、いつもより大人っぽい純白のドレスが飾られていることに気が付いた。そしてその横のテーブルには可愛らしい一輪のピンクの薔薇に手紙が添えてある。
「・・・どなたからでしょう」
綺麗な封筒をあけていくと見覚えのある美しい文字が書き連ねられており、手紙の主が誰だかすぐにわかった。
『愛しい私のプリンセスへ
君が目覚めて最初にその瞳にうつるのが私ではないことに寂しさを感じている。アオイもそう思ってくれているだろうか?・・・そして今日一日、不本意だが君を退屈させてしまうかもしれない。
早く終わらせて戻るつもりだが、気が向いたらそのドレスを着て私だけに顔を見せに来て欲しい。待っているよ。 キュリオ 』
「・・・最後の"私だけに"ってあたりがキュリオ様らしいですね」
手元を覗き込んでいたカイが半ば関心するように頷いている。
そうだね、とアオイも小さく笑ってあらためて純白のドレスに目を向けた。
今まではドレスの裾や胸元に花の細工が施された可愛いらしいものが多かったが、胸元を引き上げるように両肩には長めのリボンが結ばれていて腰のあたりに銀細工が組み込まれている。城を訪れた大人の女性がこのように美しいドレスを着ていたのを何度か目にしていたアオイは、そのたびに目を輝かせて憧れの眼差しを向けていたものだ。
「アオイ様にはちょっと早すぎるような気がしますが・・・美しいドレスですね」
カイの言葉にピクっと肩を震わせたアオイは、自分の体に目を向けるとションボリと俯いてしまった。
「・・・ね、カイはどうやって大きくなったの?」
アオイはカイを見上げると、その腕にすがりついた。
「・・・え?」
まだ寝起きのアオイの胸元を上から覗き込むようなかたちになってしまい、
押し付けられた小さな胸もまだ女性らしく・・・と言い切るには難しく、柔らかなものではなかった。
「え、えっと!!俺は男ですから・・・っむ、むねはなくてですねっっ!!??どうやって大きくなったかと聞かれると・・・っっっ!!」
顔を赤くし、激しく動揺しているカイを見てアオイはきょとんとしている。
(・・・あれ?)
と、カイが思ったときはすでに遅く・・・
「背の話だったんだけど・・・カイはどうやってそこまで大きくなったのかなって・・・胸って???」
(・・・し、しまったっっ!!)
「す、すみませんアオイ様っ!!!なんでもありませんっっ!!身長ですねっ!!!身長・・・えーっと身長は・・・っ!!!」
アオイはカイの動揺で気が付いてしまった。
(そっか、カイがいったのはレディとしての成長のことかな・・・)
「アオイ様!!身長を伸ばすにはですね!!ミルクをたくさん・・・」
カイの必死な説明もアオイの耳には遠く聞こえ、目の前のドレスさえも遠くに感じられた。すると反応がないアオイに気が付いたカイは、
「アオイ様?聞いてます?」
上の空のアオイを心配したカイが視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「あ・・・ごめん。なぁに?」
「朝食はアオイ様の部屋にお持ちしますね、きっと下の階は準備でバタバタしていると思いますので・・・」
「ありがとう・・・」
アオイが微笑んだのを見届けるとカイは部屋をでていった。
身長を気にしているアオイのためにミルクを添えようと考えながら・・・。
アオイは薔薇を手にしながら窓の外を眺めた。
城の魔導師たちまでが打ち合わせをするように慌ただしく動いている。
めかしこんだ女官たちも笑顔をほころばせながら中庭やテラスなど至る所にテーブルや椅子をセットしていく。どの品々も上品でいて趣味の良いものばかりだ。
(皆役割があるんだ・・・いいな・・・)
この祝福ムードがわからないアオイではないが、自分だけが静かな部屋に留まっていると・・・取り残された気分になり寂しさが込み上げてくる。
手元のピンクの薔薇を見つめながらアオイは小さなため息をついた。
「アオイ様お待たせしました」
朝食を手にしたカイが笑顔で部屋に入ってくる。
たっぷりのフルーツが盛り付けられたパンケーキに、あふれんばかりに注がれたミルクが添えてある。