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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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とある日常【悠久の王・キュリオ】編 アオイの初めてT-1

―――――・・・


いつもは朝日に喜ぶ鳥たちの歌声が響き渡る早朝だが、この日は人の声や忙しく動き回るいくつもの足音でアオイは目を覚ました。





(・・・ん)





うっすらと瞼を開けると、いつも顔を寄せ合い眠っていたはずの父親のぬくもりがないことに気が付く。上半身を起こして部屋を見渡してみてもその姿はどこにもなかった。





「・・・お父様?」





はっとしたアオイはすでにかなり遅い朝なのかと窓の傍へ駆け寄り、日の高さを確認する。



(寝すぎてしまったわけじゃないみたい・・・)





寝癖のついた髪に手をあてながら父の部屋を出ようと重厚な扉のノブに手をかけ力いっぱい引く。わずかに開いた隙間に体をねじ込ませ広い通路に顔を出すとすぐに声がかかった。





「姫様もう少し眠っていても大丈夫ですよ?」





と、同時に背にある扉の重みから体が解放されほっと息をつく。
そして聞きなれた声にアオイが顔をあげると物心ついた頃から傍にいる城守(しろもり)のカイが口元に笑みを含んで見下ろしていた。






「おはようカイ、お父様がいないの・・・」





廊下を見渡してみても愛しい父親の姿がなくアオイは不安そうに瞳を揺らしている。すると大きなカイの手がアオイの頭におりてきて・・・






「今日はキュリオ様が即位されて五百五十年の記念日なんです。生誕祭とはまた異なったおめでたい日ですからね、色々お忙しいんですよ」






「・・・お誕生日とは違うの?」





小さく首を傾げるアオイにカイは目元をほころばせて続ける。





「姫様がご存じないのもしょうがないです。実は俺も初めてですから。と、お部屋に戻られますか?それとも早いですが朝食にいたしましょうか?」





「あ・・・うん、着替えてくる」





小走りに自分の部屋へ向かうと、カイがその後ろをついてくる。
王であるキュリオの部屋に入ることを許されているのは極一部の人間と娘のアオイくらいだ。カイは入ることが許されておらず、用事があるときは大抵扉の外から声をかけたり待機している。今日朝早くキュリオの部屋の前にいたのは、おそらくキュリオの命を受けたからだろう。






『アオイが目を覚まして出てきたら扉をあけてやってくれないか?
まだひとりで扉を開けることが出来なくてね』






今まで何度かそんなやりとりがあったが、頼まれるときはキュリオが忙しくどうしても彼女の傍を離れなくてはならない時だけだ。それ以外は共に起きてくるか、キュリオがアオイを起こしに部屋へ戻るのだ。毎日と言っていいほど共に寝起きし、職務以外の時間はほとんどアオイと過ごすほど悠久の王はこの愛娘を溺愛している。





小走りのアオイの小さな背を見ながら、カイは彼女がこの城にきた当時のことを思い出していた。






『カイ、この子が私の娘のアオイだ。お前とは年も近い。仲良くしてやっておくれ』




挿絵(By みてみん)


今まで見たことのないくらい穏やかな顔をしたキュリオがその腕に小さな女の赤ちゃんをとても大事そうに抱えている。





カイは背伸びをしてその子の顔を覗き見ると、キュリオの顔を見ながら頬をピンク色に染め、嬉しそうに大きな瞳を細めてキャッキャと手を伸ばしている。




キュリオも微笑みながら伸ばされた小さな手に頬を寄せて幸せそうに目を閉じていた。




『アオイ、カイだよわかるかい?』





キュリオが腕をさげて二人の視線を合わせると、不思議そうにカイの瞳を見つめたアオイと呼ばれた赤ん坊はキュリオにしたのと同じようにその手を伸ばし嬉しそうに声を上げた。





『ふふ、アオイはカイのことが気に入ったようだね?』





『カイと申します、アオイ様・・・これからはお傍を離れずずっとアオイ様をお守りさせていただきます』





幼いながらもカイは城守の騎士らしくアオイに一礼してみせた。
そんな様子をみていたキュリオは小さく頷くと赤子のアオイを抱いて中庭へと歩いて行った。




『俺のお守りする姫・・・アオイ姫さま』




カイは使命感に満ちた顔で幼い姫の名をつぶやくと、キュリオの声が届いた。





『カイ?アオイの傍を離れないんだろう?』




笑いながら立ち止まり、キュリオがこちらを振り返った。





『はいっ!!キュリオ様!アオイ姫様!』




カイの元気な声があたりに響くと、家臣や女官たちは微笑ましげにその様子を見守っていた――――





(あれから間もなく十年か・・・)





クスリと笑ったカイを不思議そうに振り返ったアオイを見て、キュリオの腕の中にいたあの時の赤子のアオイと重なり・・・





「アオイ様、お傍を離れず俺はずっと貴方を守り続けます」




「うん?」




(きっとアオイ様は俺に守られるとかそういう風に思っていない・・・
俺のことを兄のように慕ってくれている)





「どうしたの?カイ」




一人物思いにふけっているカイの頬にアオイはその手を添えて顔を近づけてきた。





「貴方が大事です、俺のアオイ姫様」





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