さ-9
金子さんはふてくされてるんだけど、明らかに私を待っていたようで。
「森川！お前２時間っつっただろーが！」
と、森川さんに言った。
「オーバーした理由はコレ」
と森川さんが私の耳元で小さく言えば
「真樹にくっつくな」と
私を引き離して全身をホールドする。
「金子とは同期なんだ。お店に入る前の電話はコイツ。
山口さんとどこに行くんだ？仕事か？ってうるさくて。
店の名前メールして電源切っちゃった」
電源切っちゃったって・・・・・
森川さんも金子さんも子供みたいだわ。
「山口さん？金子の噂は知ってる？」
ポケットに手を突っ込み
ニヤニヤしながら森川さんは言った。
「森川っ。余計なこと言うんじゃねぇ」
「余計じゃないだろ？あれはドン引き要素だ」
確かに。
それだけ皆が「噂・噂」と言うのなら
本当にひどい噂なんだろう。
今まで私とすみれの耳に入らなかったのが不思議だね。
一体、どれだけの女を泣かせてきたのか。
そもそも会社でそれが「噂」になるってどんだけよ・・・・
「知ってます」
一言そう答えれば
私をホールドしている金子さんが、思いっきりギョッとして。
目の前の森川さんはビックリした後に笑いだした。
「それでもいいんだ？」
なんて聞くから
「いい。って訳じゃないですけど」
と正直に答えたら。
「だろうな。俺が女だったらいやだもん」
と真面目に言う。
女にだらしない男なんか誰だっていやだよね。
私が特別な女になって
金子さんの女にだらしない癖を治すわ！
なんて大それたことなんて、これっぽっちも思ってない。