それぞれの道1-1
「久留米さん、ここ終わったよ」
あたしはガムテープを手で切って、段ボールを封してから後ろを振り返った。
「おう、サンキュー」
彼の姿とともに目に飛び込んでくるのは、段ボールの山、山、山。
春の兆しが見えてきたとは言え、まだまだ底冷えのする季節の中で、あたしは久留米さんのアパートの荷物を片付ける手伝いをしていた。
公務員の異動が発表されるのは、ホントに4月を目前に控えたギリギリの時期で、それがあってから、異動の決まった人は急いで引っ越し先を探すらしい。
久留米さんもその一人。
まあ、官舎というものもあるらしいんだけど、久留米さんは気ままに生活できるよう自分のアパートをなんとか見つけた。
彼の次の異動先は、あたし達の街から車で2時間はかかるY市。
それを知った時は、彼と離れるのが嫌で散々泣いて久留米さんを困らせたものだった。
「あーあ、遠距離かあ……」
封をした段ボールが恨めしくて、彼に気付かれないよう小さくパンチしてみた。
仕方ないこととは言え、ため息が漏れる。
せっかく二人気持ちが通じ合って、穏やかに愛を育んでいた所だったのに、突如言い渡された辞令にあたしは会ったことの無い神様に恨み節でも言いたくて仕方なかった。