それぞれの道1-28
あたしが飛びかかったせいで、久留米さんはしたたかに後頭部をフローリングに打ち付けてしまった。
ゴッと鈍い音がひんやりした部屋に響き渡る。
「ってー……」
「わわっ、ご、ごめんなさいっ!!」
馬乗りになってごめんなさいなんてあったもんじゃないけど、とにかくあたしにはそのままの体勢で謝ることしかできなかった。
「つーか、重いし。どいて」
「は、はい……」
失礼な言葉を言われて一瞬カチンときたものの、この成り行きはどうみてもあたしが悪いので、釈然としないながらも、あたしは右足を上げて久留米さんの身体から降りようとした、その時。
ガッと肩を掴まれたかと思うと今度はあたしの視界に丸いシーリングライトが飛び込んできた。
同時に背中に受けた固くてひんやりとした感覚。
そこで初めてあたしは自分が仰向けになったんだと気付く。
そして、そのシーリングライトが久留米さんの顔に変わったかと思うと、彼は不敵な笑みを浮かべてあたしを見下ろしていた。
「そういや顔だけじゃなくて、最近腹も出てきたよな」
そう言って、素肌と赤いカットソーの間に入り込んでくる大きな手。
冷たい指先にブルッと身体が身震いした。
ゾクッとするほどその手つきはエロチックなのに、その手はあたしのおへそから這うように脇腹へとゆっくり移動すると、突然そこにあった余分な肉をつまみあげてブニブニと動かしてきた。
「ちょっと! お腹の肉掴まないでよ!!」
「まったく、太ったこと認めねえで見栄張るから二度手間になるんだよ。
最初っから9号って言ってりゃ、こんなめんどくせえことにはなんなかったのに」
バカにしたような口調であたしをこき下ろす彼。
「だって、絶対痩せるつもりだったもん……」
言い訳をした所で、現状は腹の贅肉をつままれているという悲しい状況。
やっぱりあたしは久留米さんの前ではこんなカッコ悪いとこしか見せられないのか。